02



走って、走って、気づけばまたあの赤い橋まで戻って来ていた。
さっきと違うのは、ぞろぞろと得体の知れない者達が橋を渡っているということ。

「橋を渡る間は息をしたらあかんよ」
「え…?」
「少しでも吸ったり吐いたりすると俺の術が解けて、君の存在が店のもんに気づかれてまう」

気づかれたらどうなってしまうのだろう。
怖かったけど、ひとつ頷いて彼から離れないようにぴたりとくっついた。
それから深く息を吸って、止める。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。…おや?北様ではないですか」
「所用からの戻りや、通せ」
「ヘイ、お通りくださいませ」

どうやら私の姿は周りの人には見えなくなっているらしい。
でも安心なんて全然できない。
奇妙な面をつけた普通の人間ではない者達に紛れて橋を渡るだなんて。
今すれ違った人だって全身真っ黒で足元が透けていて…

あれ…?
今の人、こっちを見てたような…

「んっ…」

まずい、息が苦しくなってきた。

「あと少しや」

橋の終わりはもう目の前。
あと少し、あと少し…と心の中で唱えていると急にぴょーんとカエルが飛び出してきたではないか。
しかも「北様〜、どこへ行っておった〜?」と喋り出したものだから驚いて息を吸ってしまった。

「ん!?人か!?」
「っ…!」

気づかれた…!

私の顔を見たカエルが飛びかかってくる。
でもその寸前で瞬時に彼が何かの術を使ってカエルの動きを止めてくれた。
そしてまた手を引かれて疾風の如く走り出す。
人と人の間を素早くすり抜け、あっという間に建物の敷地内へ。

「っ、ごめんなさい…私が、息をしたから…」

一旦紫陽花の影に身を隠したは良いが、バタバタと騒がしい足音と声が聞こえてくる。
恐らく侵入者の人間を探しているのだろう。

「いや、なまえちゃんはよう頑張った」
「!どうして、私の名前を…」
「じきにここも見つかる。俺が奴らの気を引きつけるから、なまえちゃんはその隙に裏のくぐり戸から抜け出し」
「!?や、やだ、一人にしないで…行かないで…」
「この世界で生きのびる為や。ご両親を助けたいんやろ?」

ああ、そうだ…
お父さんとお母さんが…

もうこれは夢じゃない。
豚になってしまった両親を思い出しては泣きそうになる。

「くぐり戸から出たら外の階段を一番下までおりろ。そこにボイラー室がある。中にアランと言う男がおるから、ここで働きたいとお願いするんや」

彼の手がそっと私の額に触れると、頭の中にボイラー室までの道順が映像になって流れてきた。

「ここでは仕事を持たないもんは動物にされる」
「、…!も、もし、断られちゃったら…」
「安心し、アランはええ奴や。きっと力になってくれる」
「………」
「ただ、侑に会った時には気をつけなあかん。嫌だとか帰りたいとか言わせるように仕向けてくるやろうけど、負けずに働きたいとだけ言え」

侑と言う人はここを支配している強力な魔法使いらしい。
その性格は横暴・冷徹、人でなし。
でも働きたい者には仕事を与える誓いを立てているようで、働く権利さえ得られれば誰も私に手を出せなくなるのだそうだ。

「さあ、お行き。俺ももう行かなあかんから」
「うん…」
「大丈夫、俺はなまえちゃんの味方やで。離れてても見守っとるよ」
「あの、どうして私の名前を知ってるの…?あなたは誰なの…?」
「俺は北や。なまえちゃんのことは小さい時から知っとんねん」

そう言って北くんは行ってしまった。

小さい時から…?
私、北くんと会ったことなんて…

一人になって不安でたまらなかったけど、私も頑張らなきゃいけないと自分を鼓舞して、教えてもらった通りボイラー室を目指して急いだ。




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