彼女の手作りお菓子よりも料理部女子からのお菓子に浮かれてたら彼女を怒らせちゃった侑



隣のクラスは調理実習だったらしい。
だから俺の彼女が授業で作ったマフィンをくれた。
手作りのお菓子、それも彼女が作ったもの。
今すぐ食べてしまうのは勿体ない気がして「あとで食うわ」と言った。

でもそこへ料理部の女子がやって来て、俺に同じく授業で作ったマフィンをくれた。
さすが料理部、完璧な出来栄えのそれはまるで売りものみたいで俺は驚いてつい「すご!めっちゃ美味そうやん!今食うてもええ!?」てアホみたいにテンションを上げてしまったのだ。

「良かったね、侑くん。これはもういらないね」
「へっ?」
「下手でごめんね。もう作らないから」

ひょいっとくれたはずのマフィンを奪ってこの教室を出て行ってしまった俺の彼女。
え、ちょお待って…なまえちゃん…?
顔はニコリと笑ってたけど絶対あれは怒ってた。
しかも「もう作らない」て言ってた。
え、そんな、嘘やろ…!?

「なまえちゃん!?」
「ね、侑くん食べてみてよ。自信作なの」
「やっかましいわ!!お前のせいやぞこのクソ豚が!!俺にこんなもん二度と持ってくんなや!!」
「は、…はあ!?何それ!?」

自分のアホさを棚に上げて料理部女子にキレ散らかし、ダッシュで教室を出てなまえちゃんの後を追いかけた。
そして見つけた背中に名前を呼んで足を止めさせようとしたけど、彼女は俺を無視して歩き続けている。
だからその肩を掴んで引き止めたのだが、振り向いた彼女の冷ややかな表情に思わずたじろいでしまった。

「あの、さっきの…ごめん…」
「何のこと?」
「せ、せやから…他の女子にマフィンもらって、テンションあげてもうて…」
「本当に美味しそうだったもんね、しょうがないよ」
「いや、あの…なまえちゃんのだって上手にできとったやん…?」
「無理しなくていいよ。食べる気になれなかったからあとで食べるって言ったんでしょう?」
「ちゃ、ちゃうねん…!なまえちゃんのは大事に食いたかったからで…!」
「侑くん、もういいから気にしないで」

もういいって、なに…?
なんも良くないやん…。
俺は泣きそうになりながら下唇をぎゅっと噛んだ。
なんであんなアホなことを口走ってしまったんだろう。
それも彼女の目の前で、彼女からマフィンをもらった直後に。
他の女と比べるようなクソな発言だったと今になって猛烈に反省する。

「ほんまに、ごめんなさい…俺、最低なことした…」
「………」
「でも、なまえちゃんのもらえて嬉しかったのはほんまのことで…もったいないから後で食おうと思ったのもほんまのことやねん…」
「…それが本当だとしても、他の女の子の手作りお菓子もらって喜んでる彼氏の姿なんて見たら普通は嫌な気持ちになるよ」
「それは、ほんまにごめんなさい…もう二度ともらったりせぇへん…」

彼女の前でうなだれて何度も謝罪した。
このまま「別れよう」とか言われたらどないしようって不安で恐ろしくて、大好きなはずの彼女の顔もこの時ばかりは見れなかった。

そしてしばしの沈黙。
ふう、と小さくため息をついた彼女にビクリとする。

「私の方こそごめんね」
「、えっ…」
「大したマフィンじゃないのに怒っちゃって」
「そ、そんなことあらへん…!なまえちゃんのマフィン食いたい…!いや、食わせてください…!」
「それはダメ。侑くんにはあげられない」
「な、なんでぇ…!?俺はどないしたら、許してもらえるん…?このまんまは嫌や…」
「ごめんね、バレンタインまで待っててほしいの」
「へ…?バレンタイン…?」
「それまでにもっと練習して、侑くんに喜んでもらえるようなお菓子作るから」
「!!」

バッ!と頭を上げたら、ふわりと頬を染めて笑ってる可愛いすぎる彼女の顔があってズキューン!と胸を射抜かれた。
それからもうなまえちゃんが怒ってない、許してもらえたってことに安心もして、また泣きそうになった。

「めっっっちゃ待っとる!!全力待機しとる!!」
「うん、がんばるね」

今はまだ彼女の手作りお菓子は食べさせてもらえなかったけれど、その分バレンタインに大きな楽しみができたのだった。




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