お揃いのキーホルダーを失くした彼女をキツく突き放しちゃった侑




彼女とお揃いの物を持つなんてことをしたのは初めてだった。
俺らは高校生で大したものは買えないから、ただのキーホルダーだけれど。
しかも犬のぬいぐるみのやつ。
そう言う仕様なのか一個一個顔が少しずつ違っていて「この子、侑くんに似てて可愛い」って彼女が手に取った犬は確かに太眉気味なところが俺に似ていた。
だから俺も「これなんかなまえちゃんそっくりやん」って彼女に似てるやつ探して、それらを買って互いにカバンにつけた。
俺はエナメルに、彼女はスクバに。
ぬいぐるみのキーホルダーを付けるなんて柄じゃないのに、彼女とお揃いなら全然嫌じゃないと思った。

「その犬、俺に似とるんやから大事してな?」

うんっと笑顔で頷いた嬉しそうな彼女の顔を見て俺も嬉しかった。

初めてのお揃い。
だから特別。
俺ら二人の宝物。

それなのに、そう思ってたのは俺だっけやったん?

「は…?失くした…?」
「ご、ごめんね…探してるんだけど、見つからなくて…」

申し訳なさそうに眉尻を下げながら謝ってきた彼女の言葉に頭をガツーン!と殴られたような衝撃。

失くしたって、なんで?
大事にしてくれるんやなかったん?

それに買ってまだ日も浅いのに。
これがもうボロボロでいつチェーンが切れてもおかしくないって物だったならまだわかったかもしれない。
…いや、でもそれならチェーン新しいのに取り替えれば良い話だしやっぱり俺には彼女がわからなかった。
所詮はただのキーホルダーで安物だし、そこまで大事に思って無かったんじゃないかってフツフツと彼女に対して腹が立ってきた。
本当は彼女がそんな子じゃないって、俺が一番わかってたはずなのに…。

「…何がお揃いやねん、アホくさ」
「え…」
「もういらんわ、こんなぬいぐるみ」

エナメルに付けていたキーホルダーをブチッと取って、彼女に押し付けて俺はその場から立ち去った。
あの彼女似の犬のぬいぐるみが最後に俺をやたら悲しげな目で見上げていたような気がする。
それと同じように彼女も傷ついたような顔をしていて胸がズクリと傷んだ。
なんで俺がこんな思いせなあかんねん。
傷つけられたのは俺の方やろが。

あれから数日。
俺は彼女と顔を合わせてもいなければ話もしていないし連絡すらとっていない。
同じ学校にいるのに、今まであんなに近くにいたのに急に遠くなってしまった。
…いや、俺がそうしたんだけれども。
でもそれだって元は彼女のせいで俺は悪くないし。





「ねえ、こんなの見つけちゃったんだけど」

放課後の部活前。
部室で練習着へと着替えている最中に角名が俺にスマホを突き出してきた。
なんやねん、と顔をしかめながらふと画面に見えるものを見て思わず固まってしまった。
あの犬の、俺に似た太眉気味の、キーホルダー。
彼女が失くしたと言っていた、俺とお揃いのやつ。

「ツイッターにあがってた」
「は…?誰が…?」
「リツイートで回ってきたから誰かは知らないけど、相当な侑のファンみたいだよ」
「はあ…?」
「ほら、”侑くんとお揃い!しかも侑くん似の子!”って言ってるし」

角名からスマホを奪って、何度も何度も見て確認した。
間違いなくこれは彼女がスクバに付けていたキーホルダーだ。
今になって理解した。
俺の彼女は失くしたんじゃない、この女に盗られたんだって。

「侑の彼女、今日もずっと探してたよ」
「え…」
「一緒に探そうかって声かけたんだけど断られちゃったんだよね。好きな人に大事にしてほしいって言われたものだから、自分の力で見つけたいんだって」
「、あ…」
「彼女は必死に探してるのに、侑は何もしなくて良いの?」

角名に言われて、くしゃっと顔を歪めた俺は部室を飛び出した。
走って、走って。
今すぐ彼女に会って謝りたい、抱き締めてやりたい。
もう探さなくて良いから。
俺が取り返すから。
信じてあげられなくて、ほんまにごめんっ…。

「侑くんとお揃いうらやまぁ。どこで買ったん?」
「うふふ、ないしょ〜」

廊下の真ん中を歩いとる邪魔な女がいると思ったら、そいつの手にある物を見て俺はピタリと足を止めた。

「ええもん持っとるやん。俺にも教えてくれへん?どこで買ったのか」
「え、…えっ!?侑くん!?」
「!?な、なんでここに…」
「それ一個一個顔がちゃうから同じのはもう絶対買えへんのやって、知っとった?」
「え…」
「知るわけないよなぁ?だってそれお前のちゃうしな?」
「ち、違うの、私はただそのっ…」

俺にすがりついて来ようとしたクソカス女をギロリと睨んだ。
触ったら殺す、と殺意を込めて。
そしてビクッと青ざめて怯んだ女の手からキーホルダーを奪い取った。

「二度と俺にそのドブ面見せんなや」






俺の彼女は校舎裏のゴミ捨て場に一人でいた。
寒空の下、ゴミ袋をひとつひとつ開けて中を確認しては袋を縛り直して。
あの日から毎日こんなことを繰り返していたのかと思うと胸が張り裂けそうな思いになった。

「もう、もうええからっ…!」
「!えっ、侑くん…?」
「俺がアホやったんや、なまえちゃんごめん…ほんまに、ごめんなぁ…っ」

彼女の元に駆け寄ってその冷えきってしまっている小さな身体を抱き締めた。
驚いて慌てふためく彼女は「あ、侑くん、私今汚いからっ…」って俺から離れようとしていたけど、俺はそんなことは関係無いと強く強く抱き締めた。

「ずっと、探してくれてたんやな…」
「ぁ…えっと、でも…まだ見つかってなくて…ごめんね…明日も、ちゃんと探すから…」
「っ、もうええねん、探さんでええから」

ポケットに入れていた犬のキーホルダーを彼女に見せてあげた。
大きく見開かれる瞳。
その瞳がうるりと滲んで「こ、れ…」と彼女のか細い声が震えた。

「取り返してきた」
「!侑くん、が…?」
「なまえちゃんはなんも悪くなかったのに、俺ひどいこと言ってもうて…ほんまに…ごめん、なさい…」

人に謝る時は自分の非を素直に受け止めて誠心誠意気持ちを込めて謝罪しなければ相手には何も伝わらないし、許してももらえないと北さんから昔教わったことがある。
前の俺は別にそこまでして許してもらわなくても良いと思っていたけれど、今は違う。

俺は彼女に深々と頭を下げて謝った。
許してほしい、その一心だった。

「侑くん…ありがとう…」
「えっ…?」

まさかお礼を言われるとは思ってなくて、驚いて顔を上げてしまった。
すると彼女はキーホルダーを大事そうに両手で持って胸元に抱き締めながら、泣きながら微笑んでいた。

「取り返してくれて、本当に、ありがとう…っ」
「っ、」

俺の方こそ、ずっと探してくれてありがとう。
こんなにも大事に思ってくれてありがとう。
ああ、俺はやっぱりこの子のことが大好きだ。

「侑くん、また一緒に…お揃い、してくれる…?」

彼女の制服のポケットから出てきたのは、あの日俺がエナメルから取ってしまった彼女似の犬のキーホルダーで、俺は泣きそうになりながらそれを受け取って何度も大きく頷いた。

その日、俺は彼女に部活の練習を見ていかないかと誘った。
今日は彼女と一緒に帰りたいと思ったからだ。

「…角名、今回の件はその…助かったわ」
「一週間昼飯奢りね」
「くっ…!ムカつくけど、しゃあないわっ…」
「でもたまたまだったにせよ、よく犯人見つけられたよね。悪いことしたから天罰がくだったのかな?侑も気をつけた方が良いかもよ」
「どういう意味やねんそれ…」
「彼女のこと大事にしろよって意味。あの子、めちゃくちゃ良い子だよ。侑にはもったいないぐらい」
「はあ!?」

上のギャラリーからバレー部の練習見学をしている俺の彼女を見上げた角名が軽く手を振る。
それに戸惑いながらも律儀に小さく手を振り返すなまえちゃん。
もうええから!角名なんかに振らんでええから!

そして部活後の帰り道。

「なあ、なまえちゃんって角名とどんな関係?」
「?侑くんの相談を聞いてもらう関係、かな?」
「!?俺の相談って何!?悪口とか言うてんの!?」
「違うよ。侑くんの好みとか教えてもらってるの。デートの服とか…」
「そう言うのは俺に直接聞いて!!!!!」

俺のエナメルと彼女のスクバにはお揃いのキーホルダーが仲良く揺れていた。




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