記念日に彼氏の侑が帰って来ない!



今日は侑くんとの大切な記念日のはずだった。
それなのに全く帰ってくる気配が無いのはどういうことなのだろう。
時刻はすでに二十三時半。
張り切ってディナーの準備をしたと言うのに、それもすっかり冷めてしまっている。
いくら連絡をしても繋がらないし返信も無く、私は虚しさを胸にソファーに身を沈めた。

「私だけ張り切って、バカみたい…」

もう何度目かになる記念日。
彼にとっては新鮮みも何もないただの一日と化してしまったのだろうか。
記念日は何する?どこに行く?なんて会話も今年はなかったのもそのせいだったのかも。

侑くんがバレーで忙しいのはわかっているし、だから今回は彼の負担にならないようにと思って家でのお祝いにしようと決めて、事前にその旨もちゃんと伝えておいたのに。
今日は真っ直ぐ家に帰って来てくれると思ってたのに。

もう今日のことなんて忘れて、飲みにでも行っちゃったのかな…

お付き合いを始めたばかりの頃は三ヶ月記念日やら半年記念日やら、マメすぎるほどに月を刻んで張り切ってお祝いしてくれた侑くん。
あの頃の熱は一体どこへいってしまったんだろう。
そう言えば、最近の侑くんはやたらとスマホの画面を隠すようになっていたことをふと思い出した。
別に私は見ようとなんてしてないのに、勝手に慌てて焦って。
その行動に不安はあった、でも私はあえて気づかないフリをしてた。
そんなわけないって信じたかったから。

でも、これはもうさすがに…

「記念日に浮気って、全然笑えないよ…」

時計の針がてっぺんに近付いていく。
もうすぐ日付けが変わる、記念日が終わる。
今この瞬間も彼が他の女の人と一緒に居るんじゃないかと思ったら、悲しさと悔しさでぽろりと涙がこぼれ落ちた。

だがそこへ、ガチャッ!と玄関から勢い良くドアが開かれる音。

「遅なってすまん!スマホの充電は切れるし、道は事故で激混みやし…って、なまえちゃん!?」
「あつむ、くん」
「なんで泣いとるん!?」

バタバタと忙しない足音と共にリビングに現れた侑くんは私の顔を見るなりぎょっとした顔で目を見開いた。
「なんかあったんか!?」って自分のせいだとは微塵も思っていない彼の態度にますます私は眉根をキュッと寄せる。

「どこ、行ってたの」
「エ゛ッ!?え、ええと、それは…」
「私には言えないような、やましいこと、してたの?ずっと待ってたのに、信じてたのに…」
「ちょい待ち…!なんか誤解してるやろ…!?俺が浮気してるとか思っとんのとちゃう…!?」
「っ、そうなんでしょう…?」
「なっ!?浮気なんかしてへんわ!帰りが遅なったのはほんまに悪かったと思っとるけども…!」

ぽろぽろと涙を流して泣く私を前に慌てふためく侑くんはよく見ると髪が乱れていて、汗びっしょりだった。
それに息も切れている。

「もしかして、走って来たの…?」
「おん…渋滞でタクシー全然動かんから、走った方が早いと思って…。だってほら、記念日やし…」
「!覚えてたんだ…」
「あったり前やろ!せやから今日まで色々調べて、ジュエリーショップまで寄って…」

そこまで言ってから、侑くんはハッと片手で口を押さえた。
ジュエリーショップ…?と首を傾げる私を前に、彼は「あー…」と言い淀んでガシガシと首の後ろを掻きながら、上着の中から小さな箱を取り出したのだ。

「タイミングもなんもかも最悪でほんまごめん。でも、日付けが変わる前に伝えたいから今言うな」
「えっ…?」
「付き合って七年記念日おめでとう。これからもなまえちゃんのことが好きです、愛してます。俺と結婚してください」

目の前で開かれた箱の中に光るシルバーのリング。
今日まで私からあんなに隠そうとしてたのはこれのことだったんだと理解した瞬間、ぶわりと涙がまた溢れてきた。

「っ、ばか…侑くんのバカ…!」
「バカ!?はっ、えっ、もしかして俺振られたん!?」

私の方こそごめんね、私のためにありがとう

血相を変えて騒ぐ侑くんに抱きついた私は今度こそ幸せの涙を流すことができた。
嘘やろ!?と焦りまくっている彼には申し訳ないけれど、もう少しだけこのままでいてもらおうと思う。
たくさん待ったんだもの、これぐらい許してほしい。
でもこの涙が止まって、ちゃんと笑えるようになったら伝えるから。

私も侑くんが大好きです、愛しています




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