嫁さんをパパみたいに愛でる北信介



「元気ないな。なんかあったん?」
「ちょっと仕事で色々あって、疲れちゃって…」
「そうか…無理したらあかんで。体の健康が第一やからな」

私の旦那様、信介くんは嫁である私の些細な変化も見逃さない観察眼を持っている。
それに加え、本気で心配もしてくれる優しい人だ。

「疲れとるならまず風呂に入り。お湯溜めてあるから、肩まで浸かってちゃんとあったまるんやで」
「うん…ありがとう、信介くん」
「着替えとタオル持ってくるわ」
「そ、それぐらい自分でやるよっ…」
「ええから。今日は素直に甘えとき」

頭の上にポンと置かれた手。
穏やかな顔で微笑みかけられたら、もう私は何も言えない。

「一緒に入るか?」
「えっ…!?」
「なんてな。冗談やけど」

私の反応に、ふはっと信介くんが可笑しそうに笑った。
彼はたまに冗談に聞こえない冗談を言ったりもする。
でもそれはけっこう心臓に悪くて、私はいつも一人でドキドキしているのだ。

それから信介くんの言いつけ通り、ちゃんと肩まで浸かってゆっくりお風呂に入った。
パジャマに着替えて、麦茶でも飲もうかと冷蔵庫を開ける。
すると、今朝起きた時には無かった駅前のケーキ屋さんの箱が入っていて目を丸くしてしまう。

「仕事終わりに買ってきたんや。そこのケーキ好きやろ?」
「た、食べていいの…?」
「当たり前やん、食わす為に買ってきたんやから。全部なまえのやから、好きなだけ食べ」
「うう、信介くんっ…」

こんな私をいつも想ってくれて、甘やかしてくれる信介くんが本当に大好きだ。

「ああ、でもその前に髪乾かさなあかんな。こっち来てみ、俺がやったるから」

そう言って、ドライヤー片手に手招きをする信介くん。
こんなに甘えちゃって良いのかな…と思いながらも、ケーキの箱を一旦テーブルの上に置いて、大人しく信介くんの前に座る。
「熱かったら言うてな」と言われたけれど、信介くんはドライヤーを使うのも上手だった。
全然熱くない、むしろ気持ちいい。

「お姫様になった気分…」
「何言うてるん。なまえはずっと俺の大事な姫さんやで」

信介くんが後ろにいるからその顔は見えないのだけど、でもきっとすごく優しい顔をしているんだろうなって思う。
私がお姫様なら、信介くんは王子様になるんだろうか。
でも今の信介くんはどちらかと言うと…

「ふふ」
「なんかおもろいことあったん?」
「だって信介くん、パパみたいだから」
「パパ?」

髪を乾かし終えて、ドライヤーのスイッチを切った信介くんが何やら考え込むように顎に手を置いた。

「俺のことパパにしてくれるん?」
「えっ?」
「なまえにはそろそろ仕事辞めさせよう思ってたところやし、ええ機会か」
「え、ええと…?」
「なまえの職場、いわゆるブラック企業やろ。せやからずっと心配しとったんや。なまえには健やかに俺の子どもを産んで欲しいねん」
「子ども…!?」

どうしてそんな話にまで飛躍してしまったのか。
赤くなって慌てふためいていると、信介くんは追い討ちをかけるように私の目を真っ直ぐに見てこう言ったのだ。

「俺もパパになりたい」

これはもう冗談なんかじゃないって今度こそわかった。




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