君に出会えた喜びと
君に会えない淋しさ




※幼少期の天童くんと宮姉



アイツは変だ。
そう感じた瞬間に、人間はその「変」を追い出そうとする。
「普通」の自分達こそが正しいと思っているから。

「こっち来んなよ妖怪!」
「ハハッ!確かに妖怪っぽいよなアイツ」

ボコッ!て顔にぶつけられたボールが落ちて転がる。
少し遅れて、ポタッと足もとに赤いものが垂れた。

あ、鼻血

鼻の下を手の甲で拭ったら当然だけど赤く汚れた。
だから近くの公園に寄って、水道でそれを洗い流すことにした。

でもそこで、女神様と出会ったんだ。

「大丈夫?ケガしてるん?」

その女の子は関西系の訛りが入ってる喋り方をしていて、すぐにこの地域に住んでる子じゃないとわかった。
年齢は多分、同い年ぐらいな気がする。

「血が出てる」
「ただの鼻血だよ、そのうち止まる」
「でも、痛そう」

悲しそうに眉尻を下げて、その子は真っ白なハンカチを差し出してくれた。
別に痛くなんかない、鼻血ももう止まるだろうし。
でもなんで君がそんな顔するんだろう。
まるで君までケガしたみたいだ。

「これ使って?」
「…汚れちゃうよ?」
「いいんだよ、ハンカチは汚れるためにあるものだから」

そう言ってこの手にハンカチを握らせてくれたその子の手はあたたかくて、優しかった。

「…君、明日もここに来る?これ洗って返したい」
「ううん…ごめんね、今日の夜には兵庫に帰るんよ」

ハンカチを貸してくれた女の子はやっぱり関西住みだった。
今日はお母さんの用事があって、一緒にこっちまでついて来たらしい。

「だから、ハンカチのことは気にしなくても…」
「ヤダ」
「えっ?」
「絶対返すから、名前教えて」
「ええと…宮なまえ、です」

宮なまえちゃん

うん、覚えた

なまえちゃんが首を傾げながら「あなたのお名前は?」と尋ねてくる。
だから「天童覚」と答えた。
そうしたらなまえちゃんはふわりと笑って「天童覚くん」と繰り返してくれた。

なまえちゃんとはここでお別れだけど、でもこのハンカチがいつかもう一度引き合わせてくれる。
その時まで、忘れないでいてほしいな。





あれから何年も時が経った。
俺は高校生になって、白鳥沢のバレー部に所属している。

「やっぱり匂いしなくなっちゃったなァ」
「何がですか?」
「好きな女の子の匂い」
「!?」

ぎょっとしてる工の横で大事な白いハンカチをジップロックのチャック袋にしまう。
なまえちゃんから受け取ったばかりの時はめちゃくちゃしてたんだけどね、なまえちゃんの匂い。
でも綺麗にハンカチを洗った時にはもうその匂いはかなり薄くなっちゃって、それからもう何年も経ってるってなったらそりゃ匂いも無くなる。
むしろ今は俺の匂いがついてそう。

「天童さんって、いつもそれ持ち歩いてるんですか…?」
「そうだよー。だっていつどこで運命的な再会を果たすかわかんないし?」
「は、はあ…」
「そんな運に頼らずとも、全国へ行けば会えるだろう」
「うん、若利くんはロマンが無いよね」

真顔で首を傾げてる若利くんは相変わらずだなぁと思う。
でもぶっちゃけ、ほんとにそうなんだよね。
なまえちゃんの弟、双子の宮兄弟がいる稲荷崎は全国常連校だから、うちの学校も負けなければ同じ舞台でやり合うことになるわけ。
全国でしかも身内が出場するってなったら、普通は応援に来るだろうし。
そうしたら俺は晴れて念願のなまえちゃんに再会できて、あの日の約束通りハンカチも返せるってわけだよ。

うん?なんで弟がいること知ってるかって?

そりゃだって調べたもん

好きな女の子のことは少しでも多く知っておきたいからさ

「は〜、早く会いたいね」
「そのためには勝ち続けなければならない」
「わかってるよ、若利くん」

もうすぐだから

待っててね、俺の女神様



君に出会えた喜びと
君に会えない淋しさ




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