宮兄弟と抱き心地が良い女の子



人間は本当に驚くと声も出なくなるらしい。

「おお〜、これええな。サムの言ってた通りやわ」

何が良いのか。
言ってた通りとは何のことなのか。
私は頭を必死に働かせて今起きている状況を理解しようと努めた。

どうして私は宮侑くんに抱き締められているの…?

自分のクラスに戻ろうと廊下を歩いていたら、後ろから急に長い腕が伸びてきて、その腕に閉じ込められた。
恐らく、これはいわゆるバックハグと呼ばれるものなのだと思う。
でもこんなのキュンどころじゃない。
だって恋人でもない人が背後から抱き着いてきたら恐怖しかないじゃないか。

そもそも私は彼の友達ですらないし、クラスだって違うし、話したことすらなかったのにいきなりどうしてこんな…

「何しとんねんゴルァア!!」
「!?」

突如、ドドドドッ!と言う効果音と共に現れたクラスメイトの宮治くん。
目の前から物凄いスピードで、しかも鬼の形相でこちらに走って来るではないか。

「みょうじさんから離れろや!!」
「なんやねんお前、彼氏でもない癖に」
「お前も彼氏ちゃうやろがい!」

侑くんの胸倉を掴む勢いの治くんがあまりにも怖すぎて、私は青ざめてブルブルと震えていることしかできなかった。
周りの女子達も最初はバックハグを決めてきた侑くんにきゃあなんてはしゃいでたけれど、今では可哀想なものを見るような目で私を見ている。

「だって気になるやん。お前があんまりにも抱き心地がええっちゅうから」
「だからってほんまにすんなや!見てみ!みょうじさん顔面蒼白やんけ!」
「そらお前がバチクソにキレとるせいやろ」

侑くんの言葉にハッとした治くんは途端に申し訳なさそうな顔になって、私に「すまん」と謝ってきた。
そして侑くんの腕をグイッと強引に退けて、解放もしてくれた。
ようやく生きた心地がして、どっと安堵する。

「ほんまにすまん、クソツムが…」
「う、うん…」
「いやでも冗談抜きでみょうじさんの抱き心地は良かったで。サムが騒ぐのも無理ないわ」
「お前マジで黙れや」
「さっきから抱き心地ってなんのこと…?」

私が双子を見上げて尋ねると、二人は同じ顔できょとんとなった。
それから先に「あー…その、実は…」と話をしてくれたのは治くんの方だった。

「この前、教室から出ようとしたらみょうじさんとぶつかってもうたやんか。そん時に、ええなって思ってもうて…」
「ええなって、何を…?」
「いやだから抱き心地」

抱き心地。
つまり治くんは私とぶつかった時に不意に抱き締めてしまった瞬間、「良いな」と思うものがあったと言うことなのだろうか。
そしてそれを聞いた侑くんは興味本位でいきなり私にバックハグを仕掛けてきたと言うことなのだろうか。

え、それだけで私はこんな怖い目にあったの…?
と言うか、抱き心地が良いって何…?

「あの、急にこういうことはやめて欲しいです…」
「せやんな、いきなりされたら怖いに決まっとる」
「うん…心臓に悪い…」
「俺はツムとはちゃうし、ちゃんと言うからな」
「うん…、うん?」

何を言い出すかと思えば、期待に満ちた顔で両腕を広げた治くん。

「抱き締めてもええですか?」
「………」

いいわけあるか!!




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