03
「北くん」
その声に手元のノートから顔を上げたら、俺の机の前に宮さんが立っていた。
彼女と顔を合わせるのは先日の初サボり以来だ。
それにしても、宮さんが俺のクラスに来るのは珍しい。
そばにいた練も同じことを考えているのか、どうしたのかと不思議そうに彼女を見ている。
「あのね、北くんに見てほしいものがあって」
「俺に?」
「うん、これなんやけどね」
宮さんが見せてきたのはスマホの画面だった。
画面には写真が一枚出ていて、俺はそこに写っている金髪の女子を見て目を丸くした。
え、宮さん…?
いやでも髪色ちゃうし、ウインクにピースってあんま宮さんらしくないような…
だがしかし、宮さんに似ている。
一体この女子は何者なんだと写真を凝視していると、宮さんがクスクスと笑って画面を指で横にスライドした。
「!?これも、宮さんなんか…?」
「おお…?宮さん、髪色こんなに変えたことあったん?」
画面を覗き込む俺と練の反応に宮さんはやはりクスクスと笑うばかり。
宮さんが見せてくれた二枚目の写真は銀髪の女子で、これもまた宮さんにそっくりの顔をしていたから俺らの頭の中は疑問符で溢れ返っている。
ん…?
この眠たげな目、どこかで見たことあるような…
「ふふっ、これサムくんなの。さっきの子はツムくん」
「は…?治と侑…?いやでも、完全に女子の骨格やろこれ…」
「そういうアプリなんよ」
「アプリ…??」
「ああ、なるほどな。そう言えば、そんなのが流行ってた気もするわ」
「…?つまりどう言うことなん?」
未だに理解が追いつかない俺に練がそのアプリの概要を説明してくれた。
なんでも、このアプリを使ってカメラを起動すると自分とは反対の性別の顔へと変換してくれるのだとか。
と言うことは、この宮さんにしか見えへん写真はほんまに侑と治…
なんちゅう恐ろしいアプリやねん
「あともう一つ、これもすごいんよ」
「…?これは侑…?いや、治か…?」
「え…まさかこれ宮さんか?」
「うん、大耳くん大正解」
!?
これが、宮さん…?
染めていない髪、顔立ちは少し幼く見える。
中学時代あたりの双子だと言われればそうとしか見えないような少年が画面越しに笑いかけている。
ああ、でもこの柔らかい笑い方は確かに宮さんや
「わたしも弟もね、今までお互いに似てないと思ってきたからこれ見てびっくりしたんよ」
「まあ、男女やと骨格がちゃうし姉弟でも似ないところは全然あるしな。でもアプリの力とは言え、これ見るとやっぱり姉弟なんやなぁって思うわ。なあ?信介」
「せやな。ほんまよう似とって驚いたわ。でも良かったなぁ、宮さん」
俺がスマホを返すと、宮さんは「うん」と嬉しそうに笑ってスマホを大事そうに両手で持って胸元に押し当てた。
そして制服のポケットから何かを掴んで取り出したと思うと、それを俺の机の上に置いたのだ。
リボンのように包装にくるまれた飴玉が5つ。
レモンミルクのキャンディーだった。
「大したものじゃないんやけど、これはこの間のお礼」
「別に気にせんでもええのに。宮さんは相変わらず律儀な人やな」
「この間って、なんかあったん?」
「うん、ちょっと色々あって…その、北くんの初めてをもらっちゃったんよ」
「はっ、!?!?」
「いや宮さん、その言い方はあかんて」
「え?でも他になんて言ったらいいか…」
だってあのことは秘密にしなきゃでしょう?と言わんばかりの目で首を傾げる宮さんに俺は何も上手い言葉が見つからず、結局練を困惑させるばかりであった。