02



良い噂よりも、良くない噂ばかりが本人の耳に届いてしまうのはなぜなのだろう。

「わたしね…弟とあんまり似てないのちょっとコンプレックスなんよ」

宮さんとサボった午後の授業。
空き教室の椅子に隣同士で腰掛けた俺らは、最初はたわいもない会話をして楽しんでいた。
だがしばらくして宮さんの口から、ぽろりと「自身のコンプレックス」に関する話が出て来たのである。

「ツムくんもサムくんも背が高くて、運動神経も良くて、顔だってすごく整ってるのにわたしはそのどれも持ってなくて…。ほんまに姉弟?って昔からよく言われるし、わたしもたまにそう思っちゃうぐらい似てないんよ」

どこか寂しそうに笑う宮さんの横顔。
確かに彼女は双子の弟とは外見も中身も似ていないと思う。
でも俺からすればそれは逆に良い意味でもあって、女の子なのだから小柄でも全然良いと思うし、運動神経だってちょっとぐらい悪くても可愛らしいし、顔立ちも言うほど悪くない方だと俺は感じている。
それに俺は宮さんの柔らかい笑い方が好きなのだが。

「あの双子に似てなくても、ちゃんと宮さんには宮さんのええとこいっぱいあるやん」
「そうかな…?」
「せやで。宮さんは知らんかもやけど、3年の男子にはけっこう宮さんのこと好いてるやつ多いって話やし」
「えっ?わたしが…?なんでだろう、目立つ方じゃないのに…」
「ほら、宮さんはあれや。ギラギラしてへんタイプの女子。清楚系って言うんやっけ?」
「うん…?」
「あとなんかふわふわしとるやつ、癒し系やったかな。宮さんはそれやからええって言われとんねん」
「?そうなの…?」

俺の言っていることがイマイチ飲み込めていないのか、宮さんはきょとんとした顔をしている。

「宮さんは自分にはなんも無いと思ってるようやけど、双子には無いもんをちゃんと宮さんは持ってると俺は思うけどな」
「えっ…?」
「治は姉ちゃんの作る飯が一番や言うていつも周りに自慢しとるし、侑なんてバレーとおんなじくらい姉ちゃん命で生きとる。あの二人が姉ちゃんのことを大好きでいるのは、それは宮さんが弟に対して毎日優しさと愛情をめいっぱい注いでやってきたからや」

他の誰でもない、宮さんにしかできないこと。
宮さんが姉だったから、今のあいつらがある。
双子が特別に思われるように、双子にとっても宮さんは特別な存在であることを分かって欲しい。

弟と比べられようと誰に何を言われようと、宮さんは何も恥じることなんて無い。
俺は宮さんの優しさも慎ましやかな生き方も尊敬している。

「大丈夫やからもっと自分に自信持ちや。宮さんが思っとるよりも、案外みんな宮さんのこと…」
「北くんは…」
「うん?」
「北くんはどう思ってる…?」
「どうって?」
「だから、わたしのこと…」

チラリと向けられたその視線にとくんと胸が高鳴った。
宮さんの頬がほんのり赤い、長いまつ毛が微かに震えている。

俺にとっての宮さんとは?

俺は…

「俺は…素敵な人やと思っとるよ」
「素敵?」

自分で言ってから照れくさくなってしまって、こくりと頷くことしかできなかった。
やや間を置いた後に宮さんが「そっか」と小さく笑う。
その横顔が嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。

「わたしも北くんは素敵な人だと思う」
「!」
「わたしのことを見ていてくれてありがとう。北くんがいてくれたから、救われたこといっぱいあるんだよ」

瞳を柔らかに細めて笑いかけてくる宮さんにやたら胸のあたりが熱くなった。

こんな俺でも彼女を救うことができるのなら

彼女がもう一人きりで泣いてしまわぬように

俺は大切な人である君のヒーローでありたい




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