03



なまえ姉と約束をした昼休み。
先に中庭に着いたのは俺の方だった。

「………」

なんだろう、嫌な予感がする

そう思った直後に俺のスマホに一件の通知が入った。
相手はなまえ姉から。
「ごめんね、先に行く所があるからちょっとだけ遅れます」とのラインメッセージ。
すぐに「どこに行くの?」と送ると、「校舎裏」と返信が来た。

昼休みに校舎裏ってさ

もう定番の呼び出しシチュエーションじゃん

俺は小さく舌打ちをしてスマホを制服のポケットにしまうと足早に歩き出した。
もちろん向かう場所は校舎裏だ。





「俺、少し前から角名さんのことええなぁって思っててな。好きなんやけど、俺と付き合ってみぃひん?」

案の定、校舎裏は告白現場と化していた。
建物の影から見えるなまえ姉の後ろ姿と相手の男の顔。
恐らく3年だと思われる。
だがしかしこの男、間違いなくチャラい。

「えっと、ごめんなさい…お付き合いはちょっと考えられなくて…」
「え?なんで?彼氏おらんのやろ?」
「それは、そうだけど…」
「ならええやん。俺と1回付き合ってみたら人生変わると思うで?角名さん彼氏とかできたことなさそうやし、何事も経験しとくのは大事やで?な?」

な?、じゃねぇんだよこのクソ野郎が

勝手な物差しでわけわかんねぇこと語ってんじゃねぇよ

経験が大事だ?は?

お前から何が得られんだよゴミしかねぇだろ

「あの、本当にごめんなさい。約束があるのでもう…」
「ちょお待ってや。人の告白より大事な約束て何?つか角名さん、もしかして自分可愛いからまたこう言うチャンスあるとか思っとる?」
「え…?わたし、そんなこと思ってなんか…」
「言うとくけどキミ、大して可愛いくないで?その上、俺の善意を無下にしようなんてとんだ性悪やな?そんなやと一生男なんてできへ…」

「ねえ、俺のなまえに何してんの?」

急に背後から聞こえてきた俺の声に驚いたらしい男が勢いよく振り返った。
近付いてみたらこちらよりも身長が低い相手だったから、自然と俺が見下ろす形になっていた。

つか、顔も大したことねぇじゃん

よくこれでイキってたなって感じ

「倫くん、どうしてここに…」
「なまえが遅いから迎えに来たんだよ」
「は…?え…?角名さん、彼氏おらんって話じゃ…」
「俺の彼女、恥ずかしがり屋だから内緒にしたがるんだよね。でもごめんね、実は俺が彼氏だよ」
「な、なんやそうやったんか。そう言うことやったら俺はもうここで…」

俺の圧に怖気付いたのか、何事も無かったかのようにそそくさとこの場から離れようとする男。
だが、俺はその肩をグッと掴んで引き止めた。

「待ちなよ。まだ言ってないことあるよね?」
「、は…?」
「誰が大して可愛いくないって?誰が性悪?ねえ、それ誰に向かって言ってんの?」
「い、いや、それはほんまに悪かったって…」
「悪かった?じゃあ土下座して詫びろよ」
「なっ、!?」
「ほら早く土下座」

上からさらに圧をかけて見下ろすと、男は青ざめた顔で俺の手を振り払ってこの場から逃走した。
なまえ姉に謝りもしなかったクソ男の態度にまた腹が立って舌打ちする。

あの男、マジで許さねぇ…

「倫くん、ごめんね…」
「…何が?」
「その、今のこと…」

俺がキレているのが伝わって怖いのか、なまえ姉は少し怯えていた。
その様子に小さくため息をついて、なまえ姉に歩み寄る。

「俺がなんでいつも心配してるかわかった?」
「うん…ごめんなさい…」
「もう謝らなくて良いよ。それより、怖かったでしょ?もう俺がいるから大丈夫」

その華奢な体を優しく抱き締めると、なまえ姉はこくんと頷いて小さく鼻をすすった。
きっと安心した途端に涙が出て来たのだろう。

やっぱりなまえ姉には俺が居ないとダメだよね

ずっとずっと、そばで守ってあげないと





「なあ、角名。お前の姉ちゃんって彼氏できたん?」
「…なんで?」
「いや、アランくんがそんな話聞いたって言うてたから」

治の話を聞いて、なるほどと頷いた俺は「その通りだよ」と答えた。
もちろん治は驚いたように目を丸くしていた。
それもそうだろう。
重度のシスコンである弟を持つなまえ姉が彼氏を作るのは極めて難しいことであるからだ。

「え、角名お前大丈夫なん?」
「まあ、うん」
「マジか…。姉ちゃん命のお前が認める男って誰なん」
「それは言えない。なまえ姉との約束だから」

その答えに不服そうにする治に俺はひっそりと笑みを浮かべた。

『ねえ、なまえ姉。俺がなまえ姉の彼氏になってあげるよ。彼氏がいるとわかれば変なやつも寄り付かなくなるしさ。大丈夫、その彼氏が俺だってことはみんなには内緒しておけば良いんだから。ね?これでもう安心だよ』

これは俺となまえ姉だけの秘密の話。




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