ときめくハートがキュンとする



宮さんと一緒に勉強をすることになった。
場所は学校でも図書館でもなく、俺の家。
しかもこの日はばあちゃんも近所の友人とお茶することになったらしく、宮さんと入れ替わりで出掛けて行った。

居間に宮さんを通して、ちゃぶ台を挟んで向き合って畳に座る。
集中の妨げになるからテレビはつけない。
教科書や参考書、ノートを広げてシャーペンを片手に勉強を始める。

とても静かな空間、私語など無い。
当たり前だ、俺も宮さんも遊んでいるわけじゃないのだから。

「ねえ、北くん」

参考書に目を通していると、俺の手の甲を宮さんの人差し指がちょんちょんっとつついてきた。
どうかしたのかと視線を上げれば、宮さんと目が合う。

「ここの問題、難しくて…。北くん、わかる?」
「ああ、これな。癖のある問題やけど、解き方さえ覚えればそんな難しくないで。まずはこの部分を公式に当てはめて…」

数学の教科書を指でなぞりながら問題の解き方を一から説明する。
宮さんはひとつひとつ理解するように頷いて、ノートに数式を書き込んでいった。
そうして答えを導き出した宮さんがぱっと顔を上げる。

「すごい北くん、解けた」

ありがとう、とふわりと笑う宮さん。
胸がキュンとすると言うのはどんなものなのか、俺はあまり理解できずにいたのだが、最近になってよくわかるようになってきた。
俺は今、宮さんにキュンとしている。

「あ、そうだ。あのね、北くん」
「うん?」
「実は午前中に家でクッキーを作ったんよ」

そう言った宮さんがカバンの中から可愛いらしくラッピングされた小袋を二つ取り出した。
「良かったらおばあちゃんと一緒に食べてね」とそのクッキーが詰められた小袋を手渡される。
ひとつは俺ので、もうひとつはばあちゃんの分らしい。
当たり前のように俺のばあちゃんのことも想って用意してくれる宮さんの気持ちが嬉しい。

「ありがとう、ばあちゃんも喜ぶわ。このクッキー、リボンが二種類あるけどどっちも中身は一緒なん?」
「味は一緒やけど、ブルーのリボンが北くんのだよ」

ブルーの方が俺の。
はて?と俺は少しだけ首を傾げた。
一緒の味なのにわざわざリボンの色をわけたのはどうしてだろうか。

この時はまだわからなかったのだが、勉強を終えて宮さんが帰ったあとのこと。
ばあちゃんと一緒に宮さんのクッキーを食べようとした時になって、俺はようやくあの答えに気づかされたのだ。

「あらあら、信ちゃんのもろたクッキーはえらい可愛いらしいねぇ」
「………」

ハート型のクッキー。
俺の開けた小袋の中はそれがいっぱい詰まっていた。
ばあちゃんの方は丸や星なのに。

「きっとなまえちゃんにとって信ちゃんは特別なんやろうねぇ」
「特別…?」
「だってハートやろ?特別に大好きって意味やとばあちゃんは思うけどなぁ」

特別に、大好き。
これはあくまでもばあちゃんの想像だけれども、俺は自身の頬がほのかに熱くなるのを感じた。
宮さんが作ってくれたクッキーは優しくて甘くて、ほろほろと口の中で幸せが溶けていくようだった。



ときめくハートがキュンとする




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