06



なまえちゃんが目を覚ました気配を感じ取った俺はすぐに部屋へと向かって襖を開けた。
俺がひょいと顔を出すと、起きたばかりのなまえちゃんと目が合う。

「おはようさん、なまえちゃん。よう眠れた?」

そう聞きながらなまえちゃんの顔色を確かめる。

ん、大丈夫そうやな

俺は安心して、なまえちゃんの身支度の手伝いに取り掛かった。
俺好みの色の着物を着付けて、髪に櫛を通して整える。
なまえちゃんが軽くお化粧をしている間に素早く寝具の片付け。

「ほんじゃ、朝飯食いに行こか。なまえちゃんのためにってサムが気合い入れて作っとるで」
「わあ、ほんまに?サムくんのご飯大好き」

なまえちゃんの手を取り、部屋を出て食堂へと向かう。
途中で廊下の掃除をしている狐達が俺となまえちゃんを見るなり、一斉に頭を下げた。
そんな狐達に「おはよう、いつもありがとう」と声を掛けていくなまえちゃんは本当に優しい人だ。
だからこいつらも皆なまえちゃんのことを好いている。

少し歩いて食堂の前まで到着すると、なまえちゃんは先に隣接されている台所へと顔を出した。
そこでは朝食の支度をしているサムがいる。
こちらに気づいたサムは顔を上げると、その目になまえちゃんを映すなり、とびきり甘い笑みを見せた。

「おはようさん。今日の朝飯は姉ちゃんの好きなもので揃えたで。もう出来上がるから待っとってな」
「ありがとう、サムくん。お手伝いできなくてごめんね」
「全然ええんやで。いつも姉ちゃんに作ってもらうこと多いんやし、たまにはゆっくりしてや」

なまえちゃんの分の朝食を丹精込めて盛り付けするサム。
そんなサムになまえちゃんはもう一度お礼を言ってから、台所を出て今度こそ食堂へと入って行った。

戸を開けると、中にはすでに朝食を食べ終えて談笑をしている角名と銀の姿があった。
二人はなまえちゃんを見て軽く頭を下げる。

「なまえさん、調子はどう?体は平気?」
「うん、よく眠れたからもう大丈夫」
「?なんかあったん?」
「ううん、なんでもないんよ」
「銀、女の子は色々大変なんや。聞いたらあかんこともあるんやで」
「エッ!?」
「オッホホ」

俺や角名の同期の妖狐、銀島結。
男が聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと慌てふためくその姿に、角名が可笑しそうに独特の笑い声を漏らす。

すまんな、昨夜のことはまだ内密にってことになっとんねん

「それじゃ、俺と銀はもう行くよ。なまえさん、またね」
「余計なこと聞いてもうて、すんませんっした…」
「そんな、こちらこそごめんね…?」

角名と銀と入れ替わりで俺となまえちゃんが席につく。
ここの食堂は庭が見渡せる造りになっているため眺めが良いし、日当たりも良いから明るくて暖かい。

「おはよう。これから朝飯か?」
「!?」
「あ、北くん。おはよう」

いつの間に食堂に入って来ていたのか、凛とした声に思わず肩が小さく跳ねた。
その声の持ち主、北さんはどういうわけか俺らの側に歩み寄ってきている。

「お、おはようございます…北さんも今から飯ですか?」
「いや、俺はもう食うたで」

そう言いながら何故か俺の隣に腰をおろす北さん。

え、なんで座りはったん…?

困惑を極める俺のことなど気にもせずに、北さんは茶を淹れ始めた。
そうして三人分の茶を湯飲みに注ぐと、さも当然のようにこの場に居座って茶を飲み始めるではないか。

「姉ちゃん、お待たせ…って、北さん!?なんでここに!?」
「おったらまずかったか?」
「い、いや、そんなことは…」

朝食を運んできたサムが俺の顔を見て、どうなっとんねん!と目で訴えてくる。

いや、俺が聞きたいわ!

「わあ、おいしそう!いただきます」

目の前に並べられた豪勢な朝食。
俺も腹が減っているため、なまえちゃんに習って「いただきます」をしてから箸を手に取る。
そして丁度いい塩味の焼き魚の身をほぐして、白飯と一緒に口の中にかっこんだ。
なまえちゃんはふわふわの卵焼きを幸せそうな顔で味わっている。
そんななまえちゃんを優しげな目で眺めている北さん。
サムはいつでもなまえちゃんのお代わりに対応できるようにと側で待機している。

まあ、言うて結局お代わりしたのは俺だけやったけど

それからしばらくして朝食を食べ終えると、俺はなまえちゃんの良い時を見計らって立ち上がった。
ここに居るといつボロを出してしまうかわからない。
だから今の内に立ち去ろうとしたのに、なまえちゃんに手を差し伸べたところで北さんに引き止められてしまった。

「今朝、町の岡っ引きが事件やと言うて急いどる姿を見かけた」
「そ、そうやったんですか?一体、なんの事件ですかね…」
「人が殺されとったらしいで」

ギクリとした。
これは十中八九、昨夜の人殺しの件だろう。
その場にいたサムもたらりと冷や汗を流している。

「なあ、宮さん。昨夜、どこ行っとったん?」
「えっ」
「外に出てたやろ」
「北くん、知ってたの…?」

なまえちゃんは驚きの目を北さんに向けた。
俺とサムは瞬時に、もうこれ以上はやり過ごせないと判断して、北さんの方に向かってきちっと座り直す。

この人、どこまで知っとんねん…

「月も無い晩に夜歩きなんて言語道断やで」
「はい、ごめんなさい…」
「侑と治も、お前ら用心棒やっとるんやったらちゃんと仕事せぇや」
「「す、すんません…」」

まさかの姉弟揃って北さんの説教を受けることになってしまった。
俺とサムが叱られるのはよくある図だが、なまえちゃんがここに混じっているのは未だかつて無い光景だった。
そのせいか、遠目から狐達がこそこそとこちらの様子を物珍しそうに盗み見ている。

「宮さん、頼むからもうこんな真似せんといてや。その身に何かあったらと思うと肝が冷えてまうよ」
「うん…ごめんなさい、北くん…」

だが結局、北さんもまたなまえちゃんには甘いのだ。




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