04



「なあ、なまえちゃん。寝る前にこれだけ聞いてもええ?」

脱いだ着物を受け取りながら、俺は寝間着に着替えたなまえちゃんを見つめた。

「なんで一人で夜に外なんか出たん?」
「それはその…息抜き、したかったんよ。たまには一人でお散歩に出掛けてみたくて…」

息抜き、散歩。
俺にはその理由がどうにも納得ができなくて、じいっとなまえちゃんの顔を見つめ続ける。
するとサムがなまえちゃんの肩に羽織をかけたため、サムもこの話が終わるまで引くつもりは無いのだとわかった。

「もしこれが甘味を食べに行ったとか花を見に行ったとか、そう言うんやったら俺らもここまで気にしたりはせぇへん」
「………」
「けど姉ちゃん、人っ子一人いないような場所を歩いとったんやろ?角名から聞いたで」

サムの目も真っ直ぐになまえちゃんに向いている。
だがなまえちゃんは決して俺らと目を合わせず、布団に視線を落としたまま顔を上げなかった。

「いつもと違うことをしたかったの、夜歩きなんてしたことなかったから…」
「ほんなや尚さら妙やん。夜歩きを楽しむならもっとええとこあったやろ」
「初めてだったからだよ、どこに行ったら良いかわからなかったんやもん…」

どれだけなまえちゃんの言葉を聞いても、やはり納得がいかなかった。
それから俺がさらに問い詰めようとした時、部屋の外から聞こえてきた足音にピクリと耳が反応した。

俺とサムは一瞬身構えたがその気配の正体に気づいた途端、今度は別の意味で身が強ばる。
俺らは急いで部屋の隅に正座をして背筋を伸ばした。

「宮さん、まだ起きとったん?」
「北くん…」

部屋の襖を開けたのは、うちの頭の北さんだった。
妖狐の中では小柄な方の体格なのに、この人が放つ妙に強い圧とその口から放たれるド正論が俺とサムは苦手だ。

「もう夜も遅いで。早く寝ぇへんとあかんよ」
「うん、ごめんね…。でも北くんこそ、こんな時間に起きとるの珍しいね」
「水が飲みたなって起きて来たんや。そしたら、宮さんの部屋の方から明かりが漏れとるのが見えてな」

寝間着に羽織をはおった北さんがこちらを見る。

「侑、治。いつまでここにおんねん。早く姉ちゃんを寝かせてやらなあかんやろ」
「「す、すんません…」」

俺とサムは揃って頭を下げた。
先程の話、北さんに聞かれたりしていないだろうかと緊張が走る。

「風邪を引かんようにあったかくして寝るんやで」
「子どもじゃないんやから大丈夫だよ」
「そうは言うても、前に生きるか死ぬかの大病をしたことがあったんやろ?」
「もう、それこそ子どもの頃の話だよ」

小さく笑うなまえちゃんの側に北さんは歩み寄って、その肩を優しく押し倒して上からきちんと布団を掛けてあげていた。
そして片手でなまえちゃんの頬をするりと撫でると、「お休み」と言って一瞬にしてなまえちゃんを寝かしつける。

こうなっては俺とサムもいつまでもじっとしているわけにはいかず、部屋の灯りを落とすと北さんに続いて部屋を出て行くしかなかった。




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