04



春の高校バレー。
稲荷崎高校、第三位。
それが俺らの成績だった。

「全国三位がなんやねん、一番じゃないなら意味あらへんわ」

周りは素晴らしい成績だと拍手して褒めたが、俺は全く嬉しくなかった。
負けは負けだ、敗者には遠慮なく罵れば良い。

「ツム、いつまでふてくされとんねん。ええ加減、うっとうしからやめぇや」
「………お前は悔しくないんか」
「そらクソ悔しいわ。約束まで、あとちょっとだったわけやしな」
「………」

昔、俺とサムとなまえちゃんで交わした約束がある。
俺らで一番を取ろう、てっぺんからの景色を見よう、そしてそれらをお姉ちゃんにもあげるのだと誓ったあの日を忘れたことは一度もない。

なまえちゃんは優しい人だから、負けた俺らのことを決して責めたりはしないのだ。
だが「ツムくんとサムくんが泣いてないのに、お姉ちゃんが泣いていられへんよ」と言って、泣くことさえも抑え込んでしまう人でもあった。
もし勝っていたら、なまえちゃんは我慢なんてせずに笑うこともできて泣くこともできたのかと思うと悔しくてたまらない。

ジャージに着替えた俺はぎゅっと拳を作って、体育館の外から見える東京の空を見上げていた。
隣に立ったサムも同じように上を見ている。

「…次は絶対てっぺん取ったる」
「おん」
「強くなんねん。なまえちゃんのためにも、もっと強く」
「おん、せやな」

俺がサムへと視線を移すと、サムも同じように俺のことを見ていた。
そのまま無言になったが、俺らは双子であるから言葉にしなくても通じるものがある。
だから互いに拳を突き出して、ゴツンとぶつけ合った。

なまえちゃん、もう少しだけ待っとってな





春高後、今の3年は引退をして、稲荷崎男子バレー部は新体制で出発をすることになった。
新たな主将、新たな背番号、新たなチーム。
もちろん目標は全国制覇である。

毎日バレーをして、たまになまえちゃんに教わりながら勉強もして。
気づけば俺とサムは2年に、なまえちゃんは3年で最上級生となった。

「二人とも進級おめでとう」
「おん、姉ちゃんも3年生おめでとう」
「はあ〜…なまえちゃんが3年生になってもうた…稲荷崎におられるのもあと1年やん…」
「ふふ、まだ4月だよ」
「落ち込むの早すぎるやろ」

そうは言っても、始まりがあれば終わりは必ずやって来る。
俺ら姉弟がこの稲荷崎高校で共に過ごせる最後の1年が、今日から始まったのだ。




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