03



公式ウォームアップを終え、コートのエンドラインに整列する。
主審の笛が鳴ったら試合開始だ。

「サム!!」

相手のサーブをリベロがカットして、セッターとして入っているツムが俺にトスを上げる。
もう何百回と見てきた片割れのセットアップは今日も腹立つほど完璧。
俺は助走から高く跳び上がって、スパイクを打つフォームに入った。

俺の手に吸い込まれるように宙へと置かれたボールを、ブロックの間を割って思い切り叩きつける。
ズパンッ!と相手コートにボールが落ちて、スパイクが決まる瞬間はとても気持ちがいい。

『決まったァー!稲荷崎の1年ルーキー、宮兄弟が早くも会場を沸かせます!』

吹奏楽部の大演奏、ギャラリーからの盛大なナイスキーコール。
パン!とツムとハイタッチをすれば、女子の黄色い声援も聞こえてきた。

チラッと監督の隣に座っているマネージャーを見れば、記録ノートから顔を上げた姉ちゃんと目が合った。
にこりと笑った姉ちゃんが小さくガッツポーズをとってくれる。
俺も大きく笑って片手でガッツポーズをとってみせた。

あの日、約束したんや

俺らが姉ちゃんに最高の景色を見せたるって





「サムどっか行け!なまえちゃんとバレーすんのは俺や!」
「お前こそどっか行けや!姉ちゃんとバレーすんのは俺やねん!」

子どもの頃から、俺とツムは姉ちゃんを取り合ってよくケンカをしていた。
そんな俺らに姉ちゃんはいつも優しく笑いながら「3人でやろうね」と言って、俺とツムの手を引いて外に連れ出してくれた。

姉ちゃんは本当はそこまで運動が得意と言うわけじゃないのに、俺らがバレーに夢中になっているから暑い日も寒い日も練習に付き合ってくれたし、姉ちゃん自身も「ツムくんとサムくんが頑張ってるんやから、お姉ちゃんも頑張らんと 」って、たくさん練習していたことも知っている。

「えっ、なまえちゃんバレーやらんの…!?」
「あんな練習しとったのになんでなん…!?」

姉ちゃんが中学生になった時、てっきり部活はバレー部に入るのだろうと思い込んできた俺とツムは、バレーボールはやらないと首を横に振った姉ちゃんに大きな衝撃を受けた。
何度も考え直すように説得したし、ツムなんて最終的には「なまえちゃんのわからず屋!もう知らへん!」と怒りながら大泣きして姉ちゃんを困らせていた。
でも姉ちゃんには姉ちゃんなりの葛藤があって、悩んで悩んで、そうして決めた選択だったのだ。

「わたしね…バレーは好きだけど、やるのは向いてない人間なんだなって、前々から思ってたんよ」
「そんなことっ…」
「ツムくんもサムくんも知ってるでしょう?お姉ちゃんがバレー上手じゃないこと」

眉尻を下げて微笑みながら、俺とツムの目を見て話してくれる姉ちゃんに胸がきゅっと苦しくなった。
人にはやはり得意・不得意がある。
いくら頑張っても姉ちゃんは俺やツムとは違うから、そもそも女の子なのだから、身体能力では絶対に俺らと並ぶことができない。

そんなことわかってた…

でも姉ちゃんの方が、もっと痛いぐらいにわかってたんやと思う…

「俺ら、もう姉ちゃんとバレーできへんの…?」
「嫌や…!なまえちゃんも一緒じゃなきゃ、好きなバレーも楽しくあらへん…!」

また泣き出したツムをあやすようにその頭を右手で撫でた姉ちゃんが、左手で俺の手を優しくぎゅっと握った。

「バレーはもうできないけど、でもツムくんとサムくんの練習のお手伝いはこれからもしてあげたいなって思ってるんよ」
「お手伝い…?」
「うん、コートの外からでもやれることはたくさんあるもの」
「姉ちゃん、もしかして…」

目を丸くする俺。
ツムもバッ!と顔を上げた。
姉ちゃんが柔らかく目を細めて笑う。

「マネージャーをやってみようと思って」
「!マネージャー…!」
「そ、それってもちろん男バレやんな…!?」
「うん、そのつもり。お姉ちゃん、しっかりマネージャーのお勉強して二人が来るのを待ってるね」

笑顔でそう言った姉ちゃんに、俺とツムは嬉しくてたまらずに抱きついた。
これからも一緒、立場が変わろうとも思いはずっと一緒だ。

「二人が大好きなバレーで一番が取れるように、お姉ちゃんも頑張るから」
「ほんなら、俺らが取った一番はなまえちゃんにもあげるからな!」
「せやで、俺とツムで姉ちゃんにてっぺんからの景色見せたるわ!」
「ふふ、ありがとう。楽しみにしてるね」

笑顔で三人で差し出した小指。
「約束」と言って小指を絡め合った。

その約束は高校生になった今でも継続されている。
だから俺らは毎日上を目指して挑戦し続けるのだ。




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