02



ボールが飛び交うコート内、その中で動き回るユニフォームを着た選手達。
試合に出られるのは選ばれた者のみであるが、コート外にも多くの仲間がいて、皆が気持ちひとつに戦っている。
その中でもマネージャーと言う立ち位置にいる宮さんは部内でのサポートに徹底して働いており、皆のために尽くしてくれているとても大事な存在だ。

「北くんごめんね、ドリンク作るの手伝ってもらっちゃって…」
「気にせんでもええよ。俺は試合に出るわけとちゃうしな」

俺がそう言うと、宮さんは眉尻を下げて「ありがとう」と微笑んだ。
マネージャーと共にドリンクを作っている俺はユニフォームをもらっていないため、彼女と同じジャージを着ている。
稲荷崎は強豪校であるから、学年は関係なくバレーが上手ければ彼女の双子の弟のように1年からでもユニフォームをもらうことができるのだ。

「ねえ、知ってた?稲荷崎にいるマネージャーってさ、宮兄弟のお姉さんなんだって」
「うっそ、全然似てなくない?弟はあんなにイケメンなのに」

ふと、どこからか聞こえてきたその声にすっと視線だけを動かした。
自分達の話に夢中になっている若い女子が二人、こちらに向かって歩いてきている。
チラリと宮さんの様子をうかがうと、彼女は気づいていないのかそれとも聞こえていないフリをしているのか、手元にあるドリンクに視線を落としたままだ。

「宮兄弟の姉でマネージャーもやってるってずるくない?大して可愛くなくてもチヤホヤされるの確定じゃん」
「真面目にやってなくても許されてそうだよねー。あーあ、わたし達は見てもらえるようにめちゃくちゃ努力して可愛いくして応援に来てるって言うのにさ」

あの女子二人がすぐ後ろを通り過ぎてゆく。
今度は間違いなく宮さんにだって聞こえていた。
でも彼女はやはり、何もなかったようにドリンク作りをしている。

「なあ、それ誰のこと言うてるん?」

これは大きなお世話だったかもしれない。
でも、俺自身が聞いていて許せなかった。
何も知らない人間が、日々俺らのために頑張ってくれているマネージャーのことを好き勝手悪く言っているのが許せなかったのだ。

だから俺は声をかけて女子二人の足を止めさせた。
驚いて振り返った彼女達は俺と、そして俺の隣にいる宮さんの姿を見て目を大きく見開いた。
まさかここに稲荷崎のマネージャーがいるとは思ってもいなかったからだろう。
ちゃんとその目で見ていないから、こうなるのだ。

「うちのマネージャーは努力家で優秀な人や。あんたらみたいに、男の気を引きたくてやってる仕事とちゃう」
「え、えっと、あの…」
「わたし達は、その…」
「まず謝罪せぇや。真面目にやっとる人に失礼なこと言うた上に謝ることもできひんのか?」

言い訳を述べようとする二人の目をジッと見て詰めると、彼女達は青ざめた顔で慌てて宮さんに頭を下げて謝罪をし、逃げるように走り去っていった。
驚いているのか呆けているのか、目を丸くしている宮さんが俺を見ている。

「北くん、どうして…」
「ムカついたんや。それなのに、宮さんはなんも言わへんから」

「だから代わりに言うといた」と俺が言えば、宮さんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「ごめんね、北くん…」
「………」
「それから、ほんまにありがとう…」
「…おん、こんぐらいええよ」

ふわりと微笑んだ宮さんの目尻にキラリと滲んで見えたその涙は、俺だけが知る強がりな彼女の秘密だ。




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