いつか君の一番になりたい



「北くん、頑張って」

とある大会の最終セット。
試合中によく知る声が聞こえた気分がした。
多くのギャラリーが集まる騒がしい体育館内で、たった一人の声援を聞き取ることなど可能なのだろうか。

でも俺は宮さんの声だと思った。
だからメンバーチェンジでコートに入った際、ふと上にいるギャラリーを見上げて、その端にいる宮さんにひとつ頷いてみせたのだ。

試合はいつも通り、毎日練習で積み重ねてきたことをやるだけ。

喝采はいらん、ちゃんとやんねん

今日もそう思ってコートに立ったはずなのに、どうしてだろう。
心が熱く沸き立って、ボールを仲間に繋ぐ度に自分の中のボルテージが上がっていくのがわかる。

『誰かが見とるよ、信ちゃん』

ばあちゃんはいつもそう言っていた。
神さんはどこにでもいるから、だから日々ちゃんとやるのだと。
俺は別に神さんがいようといまいと、どちらでも良かった。
神さんのためにやっているわけではないから。

でも今は、今この瞬間は、宮さんの声援に応えたい。
見てほしい、俺を、もっと。





試合が終わり、表彰式を受けるまでに少し時間があった。
こういう時、やはり双子の周りには多くのファンが集まっていて写真を撮ったりしている。

「なまえちゃん!俺の最後のセットアップ見とった!?完璧やったやろ!」
「スパイクで点入れたの俺やで!姉ちゃん見とった!?あとブロックも今日めっちゃ止めた!」
「うん、ちゃんと見てたよ。ツムくんもサムくんもいっぱい活躍しててすごかったね。本当にお疲れさま」

あの宮さんも双子と話している。
彼女は姉なのだから、弟を褒め称えるのは当然だ。

「………」

俺は別に褒めてもらいたいなどと思ってコートに立っていたわけじゃない。
だが、このなんとも言えない物足りなさはなんだ。
俺は試合で自分の役割をきちんと果たした、稲荷崎は試合に勝ち、優勝もした。
目指していたものは全て勝ち得たと言うのに、これ以上の何を望むと言うのだろうか。

そんな時、ぱちりと宮さんと目が合った。
「あ、北くん」と俺の名を呼ぶその声はやはり試合中に聞こえたものと同じ。
双子のそばを離れて、ふわりと笑顔でこちらに駆け寄ってくる宮さんに胸が小さく音を立てた。

「今日はお疲れさま、北くんも試合に出てたね」
「おん、ありがとう。俺は最後の少しだけな」
「少しでもすごかったよ。サーブで狙うところ上手だし、レシーブも綺麗やったし、落ちちゃいそうだったボールを北くんがカバーした時は感動しちゃった」

双子のように華があるわけではない俺のプレーはあまり人の目に止まらないことが多い。
それなのにあの短い時間で宮さんは俺の良かったところを、ひとつひとつ丁寧に口にして教えてくれた。

見ていてくれた。

それだけでも嬉しいと言うのに、

「北くん、かっこよかったよ」

瞳を柔らかく細めて笑う彼女の笑顔が眩しかった。
俺の欲しかったものを、いやそれ以上のものを宮さんはくれた。
心があたたかいもので満ち溢れる感覚。

ああ、やっぱり好きやなぁ

「宮さん」
「うん?」

あなたが好きです

なんて、今はまだ言えないけれど。

「ありがとう。また応援に来てや」

いつか時が来たら、この想いを伝えたいと思う。



いつか君の一番になりたい




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