worldend Dominator

worldend Dominator/クロ

恋愛要素皆無

お父様はいつだって正しい。
毛むくじゃらの人の形をしたそれは汚らわしいし
魔法というものを使うそれは人を騙すし
牙と爪があるあれは人を襲うし
空を飛ぶあれは街を汚す。
悪さばかりする人間以外のモノ達。

世界がこのように美しく血が流れないのはお父様が駆除をしてくださるから。

お父様は、人間は、いつだって正しくあるべきなのです。

いつものようにお庭の湖のほとりでお花を積んでいると見慣れない男性が木陰に立っていた。

「アナタはだぁれ?迷える旅の人ならばお父様がお導きくださるはずよ」

耳も毛も爪も普通のその人は、髪型は変だけれどそういう国から来た旅人なのだろう。
花を抱えながらその人へと踏みよる。
人々は父のことを神様のように慕っているから、このように毎日人が訪れる。

「アンタが姫サマか。見張りもいないとは相当平和ボケしてんだなここの国王も」
「…なに?何が目的?」

いつもの人々とは違う何かを感じ取り後ずさる。

「へぇ、警戒できる程度には感覚が鈍ってないようだな。姫サマは。」

黒い霧がその人を包み込む。
そして現れた尖った耳とツノ。
人ではない、その化け物。
恐怖と嫌悪感で立ち竦む、使い物にならない私の足。

「かわいいかわいい神様のムスメさんにいいことを教えてやるよ」

一瞬で目の前にその人が現れ、風圧で手に持っていた花が舞う。
彼の周りの草花は枯れ、侵食していく。

「その1、オレは黒魔道士。人間じゃない。…っつーのは見れば分かりますか」
「何が目的なの」

今にも恐怖でしゃがみこみそうになりながらも、ペラペラと喋る目の前のそれを睨む。

「その2、姫サマのオトーサマは、アンタと血は繋がっていない」
「簡単に嘘を吐くなんて流石化け物ね」

それはどうかな、とそれの手がわたしの額に触れた途端、一気に体が熱くなる。

「なに、をしたの……」

手を見ると爪が伸び、そして視界の隅に金色の長い毛が目に入る。
まさか、そう思いながら湖を覗き込むといつもとは全く違う姿が映っていた。
髪の毛も耳も爪も長く、瞳の色も金色で、まるで、こんなの、

「人間じゃない……」
「そうなんですよお姫サマ!アンタは父親と違って人間じゃない!」

両手を広げオーバーなリアクションを取る黒魔道士に掴みかかる。既に恐怖も嫌悪も消え去っている。
私が今まで穢らわしいと思っていたそれらの象徴が自らの体に付いていることが信じられない。
こんな姿にしたこの黒魔道士を許せるはずが無い。

「お姫サマ、暴力はいけませんよ」
「うるさい!元の姿に戻しなさい!!」

クツクツと笑うこの男が憎らしい。
怒りを顕にする度地面が揺れる。
何か、自分の知らない力が湧いているような感覚に目眩しながらも力に身を任せようとした時、

「なまえ!!」
「お父様…!」

騒ぎに駆けつけてきたお父様と兵士達。
お父様なら、お父様なら…

「お姫サマ、"いいこと"その3。オトーサマは神様なんかじゃない」

「なまえ、どうしてその姿に戻った…!暗示は確かに上手くいっていたはずだ!!」
「おとう、さま…?」

お父様の言葉は私が期待していたものとはかけ離れていた。
取り乱した様子のお父様はヨロヨロと近付いてきて、足元に縋ってきた。
違う、これはお父様なんかじゃない。
お父様は微笑んで私を元の姿に戻して抱き締めてくれる人だ。

「何故!何故そっちへ堕ちた!お前の記憶を改ざんすることは上手くいっていたはずだ!!俺が、俺がこの世界の神になるはずだったのに、何故だ!!何故だ!!!」

足元で泣き喚く人間をじっと見つめる。
何のことかはさっぱりわからない。ただ、目の前のそれが酷く汚らわしく見えていた。

「"いいこと"その4。この人間はお姫サマ…いや、女神様を利用したんですよ。」
「女神…?」
「そうですとも。
女神様は世界の平和の象徴だった。
しかしこの国王サマは、生き物全てが平和に暮らしていたこの世界を自分だけのものにしようと、女神様を科学技術で記憶喪失にし思い通りの記憶を嵌め込んだ。
そして女神様の力を利用しながら知恵のある生き物を殺しまるで自分が神かのように振舞っていた。」
「…」

黒魔道士の言葉は否定したいはずだったのに、何故か心の奥底が熱くなる。

「う、嘘だ!そいつの言葉は嘘だ!!俺を信じろ!なまえ!頼む!!!」

掠れた声で縋る目の前の人間から静かに離れる。
私が今、何をどうすればいいかは、なんとなく分かった。

「現在、生き物の数のバランスが取れていません。多すぎるのは、人間」

ヒッ、と後ずさる国王と兵士達。
私を騙し利用したその罪は、重い。

「やぁやぁお待たせ!黒魔道士クンありがとねー!」

黒魔道士と同じ黒い霧を纏った男の人が現れる。
世界中の精物を統括するオイカワだ。
少しずつ記憶を取り戻しつつある私はちらりとそちらを見やる。

「女神様、後は頼んだよ」

茶色い髪を靡かせ爽やかな笑顔を浮かべるオイカワに笑い返す。

「大王オイカワ。アナタの為ではなく世界の為です。」

手を空に翳し力を込める。
増えすぎている人間を、少し減らすだけ。
痛みも苦しみも何も無い。
残るものも何も無い。
同じ過ちは2度と繰り返させはしない。

「さぁ、手始めに国王サマに世界の終焉をお見せしましょうか、女神様?」

黒魔術師の声を合図に、世界は光に包まれた。

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