君の望んだ終焉

いろいろ注意。n煎じ。
title_氷葬様より






わたしはだめなにんげん。
毎日愛しいチョロ松さんに怒られてばかり。
でも優しいから私を捨てたりなんかできなくて…
チョロ松さんは、なんてかわいそうなひと。


「ねえ前も言ったよねぇ!?お弁当に入れる物くらい全部自分で作ってよ!!僕の舌を欺こうとしたって無駄だからね!?」
「ご、ごめんなさい…」

最近なんだか体調が悪くてどうしようもなくて、今朝ついに吐いてしまい立っているのもやっとだったから、ついつい、自分のお昼のために買っておいたお惣菜をそのまま入れて、要は、手を抜いてしまった。

「誰が働いた金で生きてると思ってんの?ていうかコレなんど言わせるの?ほんとうにわかってる?大体…」

頭が働かない、ぐるぐると目が回る。
なんでこんなに体調が悪いんだろうか。
生理でもないし。
チョロ松さんがせっかく話してくれているのに、
『本当に私はダメな嫁だなぁ…』
と聞くことしかできなかった。

どうやら私は酷く顔色が悪いらしく、
早めに寝ろと、優しい言葉を貰ってしまった。


それから数日後、体調が優れないので病院へ行ってきた。チョロ松さんのお金なのに、ごめんなさい。
そしてわたしは内科の医師により、半ば強制的に産婦人科へ行くことを勧められた。
その夜わたしはお腹をさすりながらチョロ松さんの帰りを待っていた。
いつもの時間、壁に寄りかかりながら、寒い玄関でチョロ松さんを待つ。
そして待ちわびた、がちゃりという聞き慣れた音に心臓はどくどくと鳴る。
驚くかな、喜んでくれるかな

「チョロ松さんおかえりなさい!聞いてくださ、」
「ちょっと、これどういうこと?」

喜びに満ちていたであろうわたしの顔に、バシリと白いものが投げつけられた。

「シミ抜きされてないんだけど」
「あ…ごめんなさい…気付かなかったの…」

白いものはいつもチョロ松さんが着ているシャツで、袖に茶色いシミが残っていた。
連日の体調の悪さで注意力が欠けていたせいだ
じんわりと滲む視界に強い言葉が投げつけられる。

「はぁ!?気付かなかったぁ!?旦那のシャツ毎日見てるよね!?なんで気付かないの!?なんで気付けないの!?」
「私が注意してなかったせいです…これからは気を付けます……」
「はぁ…どうせまた同じようなくだらない失敗重ねるんでしょ?」

小さな声で謝ると、チョロ松さんは大きな溜め息を吐いて目の前のゴミを睨みつける。
何も言葉が出てこなくて、でもゴミって喋らないよね。と、チョロ松さんのご兄弟のような言葉が頭をよぎった。

「もういいよ。明日早いから寝るねおやすみ」
「チョロ松さん……」

ああ、完全に呆れられた。こんなミスしてしまうなんてわたしはゴミ以下。そして自分の失敗を妊娠のせいにしてしまっていたわたしはなんて醜いの。チョロ松さんはこの子のパパになるの?私の血を引いたこの子を育てるの?だめよ、だめだよ。この子もきっとゴミ。わたしから産まれるすべてはチョロ松さんにとって粗大ゴミでしかない。
粗大ゴミは、大きな、ゴミ箱に、捨てるんだっけ…?










「ただいまー…って真っ暗…チッ、アイツ先に寝たのか」

最近体調悪そうにしてたから薬買ってきてやったのに。
しかも今日結婚記念日なんだけど。
せっかくケーキ買ってきたのに寝るってどういうこと?
こんなに愛してるのに最近そっけないし意味わかんないんだけど。
まさか浮気してんじゃないだろうな。

真っ暗な部屋に灯りを点けると、二枚の紙と指輪が置いてあった。
なんだこれ。


「…、これ、」

いや、なんだよ、これ
おかしいだろ
こんなに愛してるのに
なんで
こんな、こと

『チョロ松さんへ
いつもご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
どれだけ頑張っても、わたしには素敵な奥さんになることは無理でした。
ごめんなさい。
わたしが母親ではお腹の子がチョロ松さんのような素敵な人に育つとは思えません。

チョロ松さんにはもっと素敵な人に出会ってほしいのでこの離婚届を置いて いきます。
さようなら。
来世ではこんなゴミではなく、素敵な人間になって、チョロ松さんと幸せになれたらな。

名前』

「な、ぁ、なに…これ…こども、って、」

ヒュッ、と喉が鳴る。
もっと優しくしなくてはと思ってはいた。
だけど元々の細かい性格から彼女を叱って
ここまで、追い詰めて
僕の元を離れないで

「っ…行かないで……」





絞り出すように呟いたその声は、
波の音にかき消された。

「さよなら、チョロ松さん」





いつか見たあの笑顔は夢の中に





2015年作品



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