王子スキル

食堂で朝ごはんを食べ皆とのんびりとしていた時。
おめかしした春歌ちゃんがぱたぱたと走ってきた。

「今日はHAYATO様のライブなんです!」

とても嬉しそうな顔に、わたしも思わず笑みが零れた。

「せっかくの休日だもの、楽しんできてね」そう言えば、元気良くはい!と返事してくれた。
他の皆はどうやら迷子になるのが心配みたいで口々に着いて行こうか?等と問いかけていた。

もちろん幼馴染の真斗さんとレンも心配みたいで気に掛けていた。それをくすくすと笑っていると、春歌ちゃんは名前さんも笑わないでください!皆さん、私は大丈夫ですからね!と言いながら走り去ってしまった。悪いことしちゃったかな…。
その後すぐに那月さんと翔ちゃんがお出かけに行ってしまった。


そうだ、わたしも今日はお出かけしようかな。
せっかくいい天気なのだし、最近できた雑貨屋さんや洋服屋さんへ行ってみるのもいいかも。思い立ったが吉日。わたしは鞄を取りに行くため、席を立った。

「名前も今日はどこか行くのか?」

音也くんにそう訪ねられれば、

「そうね、用事はないのだけれど…新しくできたお店へ行こうかなって思ってるの」
「へえ…名前が外へ出るのは珍しいね…いつも部屋に篭ってるのに」

レンが嫌味っぽく言ってくるからわたしは何よ、悪い?と子供っぽく返してしまった。

「いや…俺も着いて行ってあげようかな、と思ってね」

ニヤリと笑うレンに対し、はぁ?という声が何故か重なった。もう一つの声は隣に座る真斗さんから発せられたものだった。

「神宮寺、お前…!」
「何を怒ってるんだい、聖川」

また始まった…

「レン、貴方はそこにいる可憐な美少女達と共にお茶でもしてなさいな、…本当はわたしがその天使達と優雅なティータイムを過ごしたかったのだけれど…レンの魅力には到底敵わないもの…残念ね」

悲しげに、残念そうに微笑むとレンの取り巻きの顔が一気に赤くなったのが確認できた。相変わらずちょろい…

「真斗さんも、すぐにレンにつっかかるのはやめましょうね…それに、怒っていると真斗さんの美しいお顔が台無しになってしまいますよ」

ぽんぽん、と軽く頭を撫でればむっ…と言って真斗さんは落ち着いたようだった。

「まったく…敵わないのは俺の方だよ…既に名前のファンクラブが設立されているらしいしね…俺のレディ達も何人か君の虜になってしまった様だ」
「ファン…クラブ…?」
「それ、俺も知ってる!!」

わたし以外の三人は知っている様子。
そんなものがあったなんて…。全ては幼少時代にレンの真似事をしていたのが始まりだったのだけど…

「…噂で聞いた話だが…名前の優雅且つ美しい立ち姿に惚れた者や、甘い言葉を掛けられた者が集っているらしいな…」

…真斗さんの立ち振る舞いを真似し、レンの甘い言葉を参考に情報を集めた結果がこれなのだ…。まさかファンまでできてしまうとは。

「…よくわからないけれど、とても有難いことね…?でもわたしは男性に甘い言葉なんて掛けたことない…」
「違う違うー!ほとんどか女子!でも男子もいるっぽいよー!」

音也がにこにこ笑って情報をくれる。
そうなのか…。

「ふうん…教えてくれてありがとう皆。わたしが知らなかったってことは直接的にはわたしには関係ないってことよね。…そろそろカフェへ行くわ、じゃあね」


手を振ってその場を去り、鞄を持ち外へ出る。
明るい日差しが眩しい…久々の外出、とてもわくわくする。

……のだけど!いつも以上にナンパされたりする!!なによ、これは!
しかも女性が多いってどういうこと…!
流石ファンクラブ効果!?…って、関係ないわ…。
これはテラスなんかにいたら余計面倒なんじゃないかしら…

そういえば…迷子にならないか心配だからと、外出の時はいつも真斗さんが隣にいてくれた気が…。だから、あの時レンにつっかかってたのかな…それは俺の役目だって…。相変わらずかわいいんだから…

…真斗さん、呼び出したら怒るかしら?



「…あ、真斗さん?」
『……名前、さっそく迷子か?』
「違うわよ!……よかったら、お茶でもしませんか?」
『…いつもそう言って迷子になっているよな』
「今回は違う!」
『とりあえずそちらへ向かう。今どこにいる』
「今はー……あれ、ここどこ…?」
『………。』



2014年作品



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