”PURE"表記(消火後)

 ご機嫌なステップで踏んでみる。そういえば、デウスなんたら博士の元研究所があった場所は、氷の湖の下にあったのらしい。今では消えた。氷の湖も蒸発したし、地盤が崩れた影響で跡形もなくなった。ニュースの最新トップを飾ったこともある。そんなことを、雪を踏みながら思い出した。
「寒いね」
「バーニッシュじゃねぇからな。もう」
「というか、さっさと飲め」
「忘れてた」
 メイスに持ってもらってたのを忘れていた。ゲーラの言葉に頷きつつ、メイスから持ってもらった分を受け取る。何度嗅いでみても、アーモンドナッツの香りがした。
「スパイスで入ってるのかな。ナッツ」
「あ? スパイスって、お前なぁ。ナッツを絞ったモンだぞ?」
「百パーセントナッツ由来だ。安心しろ。元から入っている」
「どういうこと?」
 いまいち飲み込めない。二人の話に疑いつつ、疑惑のミルクを飲んでみる。見た目は白い。"milk"と冠している以上、牛乳と同じ味ではないのか? 飲んでみた瞬間、その期待は裏切られた。
「うえぇ。薄い。牛乳じゃないぃ」
「泣くな! ちゃんと"ALMOND"ってあっただろ」
「でも、"PURE"と"DRINK"が並べば、ピュアアーモンドが配合しているものだって」
「どうしてそうなる。"PURE"は"100%"って意味も持つんだぞ? そこまで英語が苦手だったか」
「ぷ、プロメポリスの人でも英語読めない人、いるくせに」
「全ッ然、俺らに刺さってねぇからな? っつーか、泣くほど不味いのかよ」
「裏切られたことに泣いた」
「期待にな、期待。そんなに嫌なら寄越せ。交換してやる」
「あ!?」
 なんでゲーラが驚いたんだろう。ありがたく、交換してもらった。メイスのはモカだ。ココアの香りがする。交換してもらったので口直しをする。甘い。メイスは別の意味で苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「クッソマズいな。マズすぎる。こりゃ外れの一等賞だな」
「そんなにかよ。"PURE"っていう以上、それ以外は入ってねぇはずだろ」
「あ? 信じられねぇようなら飲んでみろ」
 なぜか、今度はゲーラからホットドリンクを預けられる。こっちはアップルサイダーだ。サイダーを温めて飲む文化もあるのらしい。よく炭酸の粒々が抜けきれないよな、と思う。ゲーラもアーモンドミルクを飲む。一口飲んだ瞬間、げぇと顔を歪めた。
「うっす! んだ、こりゃぁ。水とシロップで誤魔化しただけの代物じゃねぇか」
「だからいっただろう。外れの一等賞だって。あまり当てにはできんな」
「こりゃ調整用に入るだろうなぁ。詐欺じゃねぇか、詐欺」
「植物性なのに、牛乳のところにいたり」
「そりゃ普通だ、普通。スーパーに行きゃぁゴマンと並んでるぜ?」
「うそ」
「諦めるんだな」
 そこで諦めろ宣言をされても。口直しにアップルサイダーを飲む。シナモンのスパイスが効いてて、口の中でパチパチいった。
「まだ、飲んでもいいともいってねぇんだが?」
「渡された以上、飲んでもいいかなって」
「お前は何でも口に入れたがる幼児か。アーモンドミルクは、どうする」
「詐欺っつー名目で、返金できねぇか?」
「でも口にしたから、クーリングオフは無理っぽそう」
「捨てるか」
 それしかなさそうだなぁ。どうせなら、雪だるまに腕くっ付けて、そこに乗せておいた方が面白そう。いそいそと雪玉を作って、雪の上で転がす。
「なにしてンだ」
「雪だるまを作って、そこにアーモンドミルク置いてテイクフリーにしようかなって」
「それだとポイ捨て禁止条約に該当して、罰金を取られるぞ」
「うそ」
「マジだ。大マジ」
「そもそもテイクフリーにする必要なんかねぇだろ。捨てりゃぁいいじゃねぇか」
「もったいない。木に振りかけても大丈夫かな」
「まぁ、大丈夫じゃないのか。養分にはなるだろう」
「適当なこといってんじゃねぇぞ。チッ、面倒臭ぇなぁ」
 わっ。見る見るうちにカップが空へと上がっていく。ゲーラがアーモンドミルクをラッパ飲みしていた。ゴクゴクと喉の突き出たところ、喉仏が上下に動いている。これが『一気飲み』というヤツなんだろうな。そう感じていたら「プハァ!」とゲーラが大きく一息吐く。飲み干すと、ギュッと苦い顔をしていた。
「まっじぃ」
「ならなんで飲み干した」
「勿体ないからというからだろうが。ほれ、寄越せ」
「あぁ、うん」
「俺はレモネードでも買うか」
 はぁ、となぜかメイスが予定を呟く。薄いアーモンドミルクを飲み干したゲーラが、今度はアップルサイダーを飲み干す。ゴク、ゴクと今度は一口ずつ味わうようだ。喉仏の動きが、なんか違う。「ぷはぁ」と今度は満足そうな声を出した。
 アップルサイダーも、アーモンドミルクも空になる。ゴミ箱の横を通りかかったから、そこに空になったカップを二つ捨てた。ただ、モカだけが手元に残る。
「飲む?」
「責任以て飲むんだな。今はレモネードの気分だ」
「とりあえず飲んどけ。ほぼタダ同然だからな」
「おい」
 とりあえず飲んでおこう。ゲーラの耳打ちを聞き、モカを一口飲んだ。やっぱり甘い。
「ココアがほしくなった」
「やっぱ返せ」
 メイスに戻された。


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