あらゆる禍津を

 石を投げつけられる。とても痛い。それもそうか、元々バーニッシュは街を焼いた。マッドバーニッシュになると、もっとだ。彼らは恣意的に故意的に燃えるわけではない。我慢できないときを除いては、みんな我慢をしている。マッドバーニッシュだけが、人の街で犯罪行為をする組織として生き残っただけだ。だから、生き残りの務めとして、犯した罪は償わなきゃいけないな、と思う。(それが、バーニッシュ全体に広がるとしたら。どうなるだろう)幸い、バーニッシュにも人権を認められた。心ある人が通報したおかげで、石を投げた集団はお縄となった。これで、他のバーニッシュに被害が及ぶことはない。私は別にいい。
 助けを断って、ハンカチで傷を押さえる。血だらけだ。真っ赤な布を絞って、とりあえず止血する。応急処置で帰ると、ゲーラとメイスから驚いた顔をされた。
「なっ」
「早く入れ!!」
 言葉に詰まるゲーラとは反対に、メイスはとても切羽詰まった顔をしていた。腕を引っ張られる。強い力だから、引っ張られた拍子に躓く。ハンカチ落ちた。倒れそうになるのを、ゲーラに支えられる。ポタポタと血が落ちた。
「ばっ、かやろう!」
 最初に出た言葉がそれって。『ただいま』に対して『おかえり』もないんだろうか? 手にしてたであろうタオルを押し付けられる。あ、赤くなった。
(そもそも、止血に使うのは清潔な布がいいって)
 聞いた気が、と聞く前にソファに連行された。座らされて、タオルが外れる。あんなに押さえつけて、布に含ませたというのに。まだ血は出ていた。
「これは、深いな。縫う必要があっただろ」
「別に、放っておけば治るんじゃない?」
「治らねぇかもしれねぇだろ!? とりあえず、あるモンで足りるか?」
「いや、どうだろうな。とりあえず、傷口を消毒した方がいいか」
「沁みそう」
「当たり前だろ!!」
 私の一句一言に対し、ゲーラが鋭いツッコミを入れる。なんて役回りだ。ピンセットが近付いたかと思うと、チリッとした痛みが走った。
「いって」
「我慢しろ。取れる砂利を取っただけだ」
「流水だな、こりゃ。シャワー室でやった方が早ぇだろ」
「その間に止血するかもしれないし」
「そりゃ、運が良いときの話だろ」
 やっぱり野暮なツッコミがきた。新しいタオルを渡されて、傷口を押さえられる。視界が見えづらい。二人の案内でバスルームに入ると、バスタブに頭を乗せられる。スッと前髪を撫で下ろされた。
「一人でできるか?」
「できる」
「ずぶ濡れになるんじゃねぇぞ」
「余計なお世話」
 だ、という前にシャワーを受け取る。とりあえず、この位置に当てて、そこから回して。そう思った矢先、キュッとシャワーが回った音がした。
「うわっぷ!?」
「おー」
「これは、だな」
 やった本人が言葉に詰まらないでほしい。メイスの親切心で、私はずぶ濡れになってしまった。気を取り直して、傷口を流水で洗い流す。頭の血管は、浅くても切れると血をすごく出すのらしい。だから、数分くらい流し続けていると、治まってきた。なんか、まだズキズキとしてクラクラとはするけど。
「なんか、グルグルする」
「貧血だな。意外と、傷口は小さかったな」
「あぁ、でも残っちまうと大変だろう?」
「だから早めの対応が必要なんだ。あとは絆創膏貼っておいておくか」
「消毒は?」
「せっかくの傷口が悪くなっちまうだろう」
 今ので充分だ、とばかりにメイスが答えた。タオルを渡される。ふわふわのタオルだ。水気を吸って、また赤く染まる。今度は薄いシミだ。
「洗濯、大変そう」
「あとで洗っとくから、心配すんなって」
 今日の洗濯係は、ゲーラだっただろうか? とりあえず、御厚意に預かることにした。


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