TANABATA

 アジア圏で節句の一つとして数えられる『TANABATA』とやらが、バーニングレスキュー隊の中で開催されることとなった。正直、趣旨がわからない。ガロ青年とアイナ女史がこぞって開催を始めたのだけど、タンザクとやらになにをどう、書けばいいのやら。
 ジッと長方形の紙を睨む。「本来は縦書きだけど、英語だと書けねぇから通常ので頼むぜ!」とガロ青年はいってたのだけど、読むときの可読性はどうなのだ。というか、中々読みにくいぞ。それ。
 既に吊るしてある紙を見ながら思う。
「なるほど、こう単語ごとに分けて書けばいいのか」
 ボス、それは今参考にするところですか? と思うものの、ポスター調に書かれたタンザクを見る。
「こう、簡単であれば楽なんですがねぇ」
「『新作フレーバーがほしい』……」
「なによ! 人の願い事にイチャモンつける気ぃ!?」
「んじゃぁ、手軽に『○○が欲しい!』みたいなことを書きゃぁいいのか……?」
「とはいえ、そう簡単に出るものじゃないぞ……?」
「そうだな、もう僕たちはバーニッシュでもないし。当時ほしかったものも、皆が手に入れている」
「良い時代になりましたねぇ」
 未だに根深い問題は残っているが、あの虐げられて逃げ続ける日々を思えばマシだ。我々はそのような状況に対して声を上げていた立場だが。
 ペンを握る。でも思いつかない。
「……ボスは、なにを?」
「え、僕か? いや、なにも思いつかないな……」
「おいおい! お前らなぁに難しい顔をして考え込んでんだよ! こーいうときはなぁ、気軽に、ドーンッと! 今自分のほしいモンを書きゃぁいいんだよ!」
「今、ほしいものか……!」
「なるほど!」
「それなら、一つあるぜ」
「確かに」
 そう一斉に頷くと、それぞれ書き始めた。いうまでもなく、ボスは「元バーニッシュの皆が平和で安全に暮らせますように」で、メイスとゲーラは「ボスの願い事が叶いますように」で、私はといえば「ボスや皆の願い事が叶いますように」だ。
 それを垂らそうととしたら、ガロ青年を始めレミー副隊長に止められるなどをした。
「ちょっと待て!!」
「もう少し落ち着いて考えないか!? 紙はまだある、ちゃんと自分の願い事も書け!」
「ボス、確か天辺に吊るすと一番願い事が叶いやすくなるとかいいます」
「是非! ボスの願い事をそこに!!」
「そうか。じゃぁ、お前たちのもそこに吊るすとしよう」
「待てよ!!」
「泣いても無理だと思うけど……。ボス、もう一個書いていいんですって!」
「へぇ。だったら書いたらいいんじゃないか? 助かる」
 ボスにゲーラとメイス、私の分を渡すと、シュルシュルと紐を結び始めた。
 ゲーラとメイスがボスの体を二人掛かりで支えながら、タンザクを吊るすのを手伝う。そうはいわれても。ボスがやらないのならば此方として、別に願うことはない。
「なら、なにか個人的なものを軽く書いてみたらどうですか? ボス」
 でも後ろで慌てふためいたり頭を抱える視線や気配が面倒くさいから、とりあえずボスに尋ねる。
 ボスが振り向く。私たちのタンザクを結び終えると、ゲーラとメイスの二人から降ろされて、少し考え込んだ。
「うん、そうだな」
 ボスの考えが少し同意に傾きそうなので、揺さぶるようなことをいう。
「じゃぁ、小さなことでも書いてみたら? 取り留めのないことでも充分かと」
「うん、そうだな。ガロのもチラッとだけ見たが、本当にその通りだったし」
「おい、リオ! 俺の火消し魂にかける願い事は、そんなチャチなもんじゃねぇぞ!?」
「お前にとってはそうだけど、日頃お前がそう思ってることは確かだろ」
「お、おう? そうだが」
「じゃぁ、それに似たようなことを書けばいいんだ」
 ガロ青年を納得させると、ボスは新しい紙を手に取る。ペンも手にした。ボスの動向を見守ってると、私たちも別の隊員から新しい紙を渡された。暗に「お前も書け」といわれている。
 ゲーラとメイスに顔を上げた。
「なに書く?」
 それにメイスが呆れたような顔を見せる。
「お前、さっき自分でいってただろ……」
「小さなことねぇ……。んじゃぁ、俺はっと」
 キュッとペンを開けると、ゲーラは得意げに願い事を出した。ペロッと舌を出して唇を舐めたから、どんなに自信のあることだろう。と思ったら『新しいバイクがほしい』と書いてあった。
「バイク」
「おう! バーニッシュサイクルであったマイアミみたいな、超パワー型の四輪がほしいんでね」
「ルチア博士にいえばいいじゃん」
「遠回しにいってんだよ!」
「なら、俺はこう書くか」
 ゲーラの思惑に続いて、メイスもペンを走らせる。覗き込めば『バーガーの無料券がほしい』と書いてあった。
「タダ券」
「あるとお得だろ?」
「まぁ、そうだけど」
「お前は何を書くんだよ」
 そうゲーラがいうので、私の紙を見る。
 まだ、真っ白だ。
(ゲーラは『バイク』で、メイスは『タダ券』)
 どれもバーニッシュであった頃を思わせるし、その当時から顧みても、現在ほしいと思われるものだ。じゃ、こうしようかな。
 一つの願い事を見つけて、サラサラと紙に書いてみた。とりあえず、ルチア女史みたいな単語の配置と、アイナ女史みたいなポップさも意識してみる。
 書き終えると、ゲーラとメイスは珍しそうな顔をして覗き込んできた。
「ほほーう」
「『おいしいものをお腹いっぱい食べたい』か」
「極東のお菓子って、どれも美味しいのでいっぱいなんだよね……」
 もうあの国柄が舌の繊細な住民ばっかだから、それもあるだろうと思うけど。そんなことを思ってたら、ガロ青年に見張られていたボスが書き終えた。
「よし、これでいいだろう」
「おっ」
「書き終えましたか、ボス」
「俺らはこういうことを書きやしたぜ!」
 そういってボスに願い事を見せに行くと、ゲーラが固まった。手を口元にやり、震えている。続けてメイスが不思議に思ってボスのタンザクを見ると、同じことをした。口を手で押さえ、震えている。
(いったいなんなんだ)
 そう思ってタンザクを持ちながらボスの願い事を見ると、やっぱりボスは凄い。
 ボスはタンザクに『早くバーニングレスキュー隊の仕事を覚えて、現場で仕事をできるようになりたい』と書いてあった。
(やっぱり、ボスは私たちのボスじゃん……)
 変わらないボスの姿に、涙腺が脆くなった。
「なんだ、お前ら。みんなしてそう震えて……。なにか悪いものでも当たったか?」と、そう私たちの肩を一人一人ずつ擦って確認してくるけど、「いいえ」としか答えられなかった。だって、ボス、めっちゃ前向きで頑張り屋……。
(いや、でも。前からそうだったけど)
「すまねぇ、ボス。俺ら、自分のことばっかりで……」
「もしタダ券が手に入りましたら、ボス、貴方にあげます!」
「いや、いい。メイスが手に入れたものだから、メイスが使うといい」
「ハッ、そうだ! タンザクの裏にはもう一面、書く場所があった!!」
 ちょっとペンが滲んでるけど、書く分には問題ない! ちょっとインクの染み込んでるタンザクの裏に翻す。そこにサラサラと願い事を書いていると、メイスもゲーラも気付いた。
 同じように願い事を書く。
「こうだ!」
「これで!」
「俺たちもボスに顔向けができる!!」
 そう叫んでボスに願い事を見せたら、苦笑された。
 私は『早く現場の情報処理に慣れたい』で、ゲーラは『ギアをさらに上手く使えるようになりたい』、メイスは『高機動救命消防隊の知識を全部頭にぶちこみたい』だった。それにボスは笑ったのらしい。
「本当、お前たちは相変わらずだな」
 そんなことをいって一通り笑ってから、私たちのタンザクも吊るしてくれた。
 さっきのタンザクより、少し低い場所に私たちのタンザクが並ぶ。
「本当、お前らは相変わらずだなぁ」
「奉仕精神が強いというか利他的というか」
「まぁ、ちゃんと利己的なとこがあるからいいんじゃなぁい?」
「願い事二つ書いても、バチは当たらないでしょ」
「うん? 三つじゃないのか?」
「どれも利他的なものだからノーカン、というヤツだろう」
 そんなボヤキが後ろから聞こえるけど、どれも願い事であることには変わらない。ゲーラとメイスの二人に支えられたボスが、戻る。
「全部叶うといいな」
 そう嬉しそうに笑うので、「うん」とだけ頷いておいた。
(でも)
 本当に願い事が叶うとしても、その叶う立場である神様は、本当てんてこ舞いになるんじゃないのかなぁ。なんてことを思いながらTANABATAの周辺で起こる騒動を見ていた。
「お腹空いた」
「食うか?」
「さっきイグニスの隊長が買ってきたバーガーが余ってんぞ」
「食べる」
 ゲーラとメイスからシェイクとバーガーを受け取り、齧りついた。チェーン店の薄いパンに濃いソース、それに平べったいお肉とチーズにレタス。
「もう少し、ボリュームのある方がいいなぁ」
「じゃあ、ビッグバーガーを頼め」
「あるぞ。ボリューム」
「そういうのじゃなくて、味のボリューム」
 まぁ、いいや。
「今度探索して、お店探そう」
「おう」
「ついでにバイクの部品も見つかるといいな」
 わあ、付いてくる気満々かぁ。と思いながら、車庫で組み立ててるバイクに思いを馳せるなどをした。


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