膝枕の推奨

 リオ・フォーティアという人物について考えてみるが、どうしても素性はわからない。突然現れて、ゲーラとメイスたちを助け出したかと思えば「僕たちの街を作る」といった。人間と離れて暮らす、バーニッシュだけの街を作る──。気持ちは立派だ。そしてやることも立派だ。
 三十年前の世界大炎上から今に至るまで、たまに人の街を逃げ出したバーニッシュが暴れ出すことがある。そういうときは大抵、小さな町や村が焼かれたり、その材質のせいで飛び火をして、結果大惨事になってしまうことがある。だから、少し遠出をすれば、そのような残骸を度々見つけることができた。
 砂に埋もれた死体を掘り起こし、埋葬をする。そういう手厚い葬儀をしてから、私たちは物資の調達をした。食べ物に家屋の材料、それと使える消耗品。耐火性の高いものだったり運がよければ、そういうものが残っていることがある。そして大抵、建築に使えそうな大きいものだったり重いものはリオが持って行ったりすることがある。
(大変そうだな)
 確かに、私とゲーラとメイスよりも、リオの方が力は強い。だから私たちは食べ物だったり消耗品だったり、比較的軽いのを持ち運ぶ。けれども、このままでいいだろうか。
 ポンポンと膝を叩く。山積みの物資を後ろにして寝転がるリオが、目を開けた。
「なんだ」
「いや、こっちの方がいいかと思って」
 もう一度膝を叩く。するとリオは眉を顰めた。
「余計なお世話だ」
「そんなこといわれても。寝心地は地面よりは最高だと思う」
 少なくとも、太ももの肉はまだ残っている。そんな、固いほどではないと思う。頑なに膝を叩き続けると、背を向けたリオが顔を戻した。
「お前、僕が男だというのを忘れていないか?」
「少年。たまには甘えるのもいいと思う」
 いい息抜きだよ、とアドバイスを与える。少なくとも、私たちの方が長く生きているのだ。年長者の立場からいうと、背中で「やれやれ」といわれた。
「お前。僕が折れるまでずっとそうするつもりだろ」
「うん」
「見張りのゲーラとメイスが戻っても、アイツらにいうつもりだろ」
「最悪ゲーラのジャケットをボスに渡して枕の代わりにさせたらどう、っていうつもりだった」
「鬼だな」
「リオが折れないから」
 そう条件を出したら「フーッ」とリオが溜息を吐いた。
 のっそりと立ち上がる。そして怠そうに私の前に立ったあと、ゆっくりと横になった。
 リオの頭が膝の上に乗る。
「確かに、地面よりはマシだな」
「脂肪は男の人よりも付きやすいから。少しは柔らかいでしょ?」
「あぁ、柔らかい」
 頷くリオが目を閉じたのを見て、頭を撫でる。触れたと思った瞬間、スッと手を払いのけられる。
「撫でるな。気が緩む」
「緩んじゃえ、緩んじゃえ。ここには敵もいないから」
「いないからって、お前な。フリーズフォースの連中がいつ、僕らを見つけるかもわからないんだぞ」
「だからこそ、ゲーラとメイスが見張りをしてるじゃん。あの二人なら気付くよ。ちゃんと起こす」
 薄く目を開けたリオが、ジト目で私を見る。なにか文句いいたそうに、人の服の裾を握った。
「起こすから」
「本当だな?」
「うん」
「なら、信じる」
(わっ、素直)
 そういうや否や、リオは目を閉じた。少し身動ぎをして体勢を直してから暫くして、静かな寝息が聞こえる。
(寝付き、いいな)
 もしかしたら撫でてるおかげかもしれないし、単に寝付きがいいからだけかもしれない。けれども「頭を撫でられると気が抜ける」といわれた以上、彼の睡眠を守るためにも、撫で続けた方がいいと思う。
 キラキラと炎の光で髪が輝く。同じ作業の繰り返しと炎の温かさでウトウトとしていたら、ゲーラとメイスが戻ってきた。
「おい、交替だ……って。あ」
「あー……」
 そりゃ、できんよな。って、メイスが納得したような顔をしていた。


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