計算ドリル

 雨はとても厄介だ。洗濯物も乾かないし、傘を差さないと濡れる。そんな折メイスがやってきて家事を手伝ってくれた。浴室も掃除して、キッチンの汚れも取る。最後に廊下や床の掃除もして終わった。手持無沙汰になる。暇潰しの道具を見つけるにしてもなにもない。メイスは勝手に、人の本を読んでいる。『お手軽簡単レシピ』というヤツだ。
(料理、するんだ)
 そんなことを思いながら、積み重ねた本を手に取る。簡単な英語で書かれた絵本だ。その次に学校で使う教科書で、ノートを取り出す。まだ、あそこをクリアしていない。
「熱心だな」
「まぁ」
 顔を上げたメイスの一言に答える。ペラペラと教科書を捲ってみるけど、自力で頭から捻りだすことはできない。教科書を閉じる。やっぱりわからない。
「どこかわからないのか」
「まぁ」
「見せてみろ」
 ペラッと該当ページを開いて見せてみる。後ろから覗き込むメイスは、そのまま私を抱えるようにして座った。肩に顎を乗せられる。メイスの長い髪が顔にかかった。
「ここを使えば楽勝じゃねぇか」
「頭になきゃ意味がない」
「そうはいうがな、こんなの繰り返しやるのがコツだ。地道に問題を解いてみろ」
「同じのだと飽きる」
「似たようなのを探せ」
「途中式が載ってない」
「じゃぁ他のドリルを探せ」
 そういわれてメイスの目を見る。問題集に落ちたメイスの目が、私に移った。
「なんだ」
「いや、メイスでも『ドリル』っていうことがあるんだな、って思って」
「あのな。ちゃんとそこに書いてあるだろ。『ドリル』って」
 といって、積み重なる本の一つを指差した。そこに、ちゃんと『ドリル』と名前が付いている。問題集の一つだ。
「よく見てるね」
「当たり前だ」
 そういって、メイスは私を抱えたまま問題集をペラペラと捲った。


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