卵を割って

 ゲーラに「卵割っておいて」と頼んだら、殻ごと卵がボウルに入っていた。しかも、黄身も潰れて白身と一緒にボウルの外に垂れている。
「ヘタクソ」
 汚れた調理台にそういったら、ゲーラはキッと眉尻を上げた。
「しょ、しょうがねぇだろ!! 慣れてねぇんだからよ!」
「そんなに初めてだっけ?」
 一度や二度くらい、割るところを見たような気もするけど……、気のせいだったか? ゲーラの前に割り込み、汚れた調理台を拭く。台拭きにも、ベットリと白身と黄身が付いた。このままでは気持ち悪いので、水で洗う。
「ゲーラ。そこ、キッチンペーパーあるから、それでボウル拭いておいて」
「お、おう」
 素直に頷いた。それからキッチンペーパーを取って、汚れたボウルの周辺を拭く。それで、調理台がもう汚れることがないだろう。台拭きを所定の場所に戻したら、手を洗う。それから冷蔵庫に向かって、卵をもう一つ取った。
「見てて」
 ボウルを少し引き寄せ、ゲーラに見やすい形にする。コンコンとボウルの縁に卵を叩く。殻にヒビが入ったところに指を当て、そのままパカッと割った。
「こうやるの」
「おう」
「やってみて。もう余分に作るから」
 練習にと思って、ゲーラにボウルを差し出す。ボウルの中には、自分の失敗した卵の一部と、私の割った卵の一個のみ。加えて、最初に用意した材料にある分は、残り二個。
 ゲーラは意を決したように卵を一つ取った。片手でしっかりと、ボウルの縁に近付ける。ちゃんと潰さないように気を付ける。そうっとボウルの縁に卵を当てたかと思うと、そのまま割った。
 カチャン、と今度は中身ごと調理台に流れる。
「なんで」
「なっ、慣れてねぇんだよ!」
 顔を真っ赤にしたゲーラが逆ギレした。けど、卵一つも割れないでは、このあと不安そうだ。とりあえず、ゲーラにもう一度教える。
「卵、放っておくと乾いちゃうから。先に片付けておくね」
 グッとゲーラは黙る。調理台に落ちた卵をするすると滑らせて、三角コーナーに落とした。もう一度、台拭きで汚れたところを拭く。
「命を頂いてるんだから、もう少し卵さんを労わって」
「たまごさん」
「そう。卵さん。最終的に卵さんをこの中に入れて、掻き混ぜるんだからね」
「人権与えたのにすぐ殺すのかよ」
「擬人化って知ってる? 乙女の柔肌のように」
 なぜか頬を触られる。
「扱って、優しく割るの。わかる?」
 軽く頬を抓られ、ムニムニと触られる。ジッとゲーラを見る。ゲーラもまた私を見返す。なんか、眠そうだな。
「おう」
 といってからゲーラは手を放した。そして卵を一個取り、ボウルの縁に当てた。コンコンと殻に罅を入れる。私の頬を軽く抓んでムニムニと感触を確かめたあと、入った罅に指を当てた。そうっと、両手の人差し指で卵を支え、罅を広げる。パカッと音がしてから、綺麗に卵が割れた。ボウルの中に見事着地した。
「っし! できたぞ!!」
「よかったね。わかった?」
「コイツがありゃぁ、イケる」
「触らないで」
 というか人の頬を勝手に揉まないで。そういってゲーラの手を叩き落としたら、また頬を揉まれた。


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