12/24-25の最中(消火後)

 クリスマスは本来二十五日で、イブは二十四日の夜だ。じゃぁ、何故二十四日にわざわざ『クリスマスイブ』と名前を付けるか? それは、主要な宗教にある救世主が生まれた前夜だからである。誕生を祝う前夜祭として、クリスマスイブがある。当日の午前中を過ぎれば、クリスマスでなくなるからだ。時間を縫って、元バーニッシュの子どもたちと過ごす準備をする。ゲーラは孤児院の院長先生に電話して、当日のメニューを聞いていた。メイスはいくらかかるかの計算をしていて、私はプレゼント選び。それと余った額でなにができるかの考案。久々にバーニッシュだった子たちとあったけど、全員村にいたときよりも大きくなっていた。(やっぱり、栄養のあるものを食べていたからなのかな)街に入って、暮らしてから気付く。どんなにバーニッシュの村が貧弱で弱い村だったかを。
「皆、元気そうでよかったね」
 シンシンと雪は降るけど、喜ぶ余裕はない。なんか、そういう現実を目の当たりにしたから。ゲーラもメイスも街に来て、バーニッシュだった頃より色んなものを食べている。けれど、どんなに鍛えても筋肉は付かない。付いてもほんの僅かで、細いのは細いままだった。「あー?」とゲーラは煙草を吹かしながら返すし、「そういうものか?」とメイスは煙草を咥えたまま話す。いや、だって。否定的な二人にいう。
「皆、すごく背が伸びてたし」
「成長期だろ」
「孤児院の経営も、苦しいっていってたな。バーニングレスキューからの寄付があるとはいえ」
「体つきも、しっかりしてた」
「バーニッシュだった頃よりも、食えるモンはあるからな」
「基本的、食うものに困らない。三食きちんと食うことはできるだろう」
「えっ。っていうと、できないところもあるの?」
「劣悪な環境の施設だと、そういうのはゴロゴロいるンだよ。平気で食事を抜かしたりな」
「清潔な環境にすら置かないところもある。そういう前時代的でないだけ、有難いな」
 ぞーっと血の気が引く。(それ、って)フリーズフォースに捕まったときと、大差ないのでは? あの牢獄に閉じ込められていたときの環境も、それに近い気がする。ゲーラが咥えた煙草を抓んで、フゥと息を吐き出した。
「まっ、それも国際法で禁止されてるけどな。人権意識ってヤツよ。違反したら大罪だぜ?」
「世界の人権意識の大躍動に、一歩感謝だな。黒人奴隷の時代だと、もっとヤバイ。いや、大航海の時代もか」
「そんなに?」
「移民の国にゃぁ、色々あるのよ」
「歴史を紐解けば大事故が見える」
「そんな過去が」
「まっ、今はマシだってこった」
 そういって、ゲーラが煙草を吸いに戻る。酸素が送られてなかったからか、煙草の火はちょっと弱い。チロチロと弱く光り出して、落ちる雪を溶かす。「ほら、冷めちまうぞ」メイスが煙草を口で挟んだまま、飲んでないカップを指す。帰りのスタバで買ったものだ。この時間にもまだ開いていて、軽く抓めるものや飲めるものを買えた。日付が変わりそうな時刻へ近付いても、まだやってる。(食べたり飲んだりした後の煙草って、美味しいのかな)思えば、時々こうして煙草を吸うときがある。一日の終わりに、というヤツか。煙草を吸える場所が年々と減ってる分、こうして纏めて吸っているのかもしれない。
「今年も、クリスマスがヤバかったな」
「あぁ。イルミネーションとか、ツリーが特に」
「孤児院にもあったよね。クリスマスツリー」
「どっかから貰ってきたんだろ。あれを、自分たちで飾り付けだ」
「俺たちも、もっと顔を出せるといいんだが」
 どうにも都合が付かん、といって道端に灰を落とす。積もる白い雪が、黒い灰で溶けて沈む。
「なんか、灰に残る成分とかで特定されそう」
「その前に金がかかる」
「労力が釣り合わねぇよ。まっ、文句をいわれるだけだろ」
「罰金」
「嫌な世の中だ」
「クレーマーに絡まれたら、とんでもないぜ」
「バレなきゃいいね」
「頼むぜ。メイス」
「俺に振るな」
 お断りしたいようである。「だから気付かれにくい場所を選んだわけだが」とメイスが先に続けた。ふぅ、と息を吐く。煙草の煙も熱いのか、じわっと降り落ちる雪が煙の中で溶けて消える。蒸発だ。
「治安の悪いところだと、警察の目はもっと他のところに行く」
「あぁ、ヤクの引き渡し」
「やく? 薬物って意味?」
「おっと、それ以上はいけない」
「自分でいいやがった癖に、なにいってンだ。テメェ」
「変な人が釣れちゃう」
「そういうところだ」
「自信満々にいってんじゃねぇよ。ったく」
 付き合いきれねぇ、とばかりにゲーラが吐く。クシュッと煙草を咥えてる方を噛み潰した。
「ゲーラ、それだと、煙草上手く吸えないよ?」
「あ? 知ってらぁ」
「一本数百円もする代物だというのに。勿体ないことをする」
「だったらつまんねぇこといってンな。メイス」
「なにをいう。俺は平常運転だ」
「お前のつまんねーボケに一々ツッコミきれねぇんだよ。ボケ」
「ゲーラ、口悪い」
「んなの、あー」
「丸め込まれてるぞ。ゲーラ」
「うっせ。黙ってろ」
 あっ。ギロリ、とゲーラがメイスを睨んだ。なんだか、下から睨み付けるようである。でも、口の悪い口を揉むことはやめない。煙草も噛み潰されたからか、煙の出が悪い。むにむにとゲーラの唇を揉む。「もうそろそろ、いいだろ」と顔を顰めたゲーラが口に出した。閉じた瞼が開くけど、視線がそっぽを向いてる。「うん」ゲーラの口を解放した。すると噛み潰された煙草が離れて、クシュッとコンクリートに押し付けられた。雪と一緒に火を消す。
「流石に、本体を捨てちゃ不味いか」
「まずいだろ。ほら、これに入れておけ」
「空だよな?」
「飲み干したヤツに雪を埋めて簡易的にした」
「エコ的」
 いや、煙草を吸ってる時点でエコなのか? ちょっとわからなくなってきた。
 メイスの飲み干した紙コップに、ゲーラが煙草を捨てる。これでポイ捨ての証拠はなくなった。それでもまだ口寂しいのか、ゲーラは煙草を取り出す。シンシンと雪が降る。高いビルの隙間や頭を乗り越えて、巨大なクリスマスツリーの天辺が見えた。
「お金かかってる」
「そんだけ電力や金に余裕があるってことだろ」
「成金の趣味じゃないだけ、まだマシだな。協賛している企業もあるという」
「そうなんだ」
「っつか、置いてある時点でバレてんだろ。どこが金出したか、っつーことくらい」
「役所と手を組んでも、企業にデメリットはあるまい」
「そーだけどよ。ったく、誰だ。恋人同士の夜だなんて阿呆抜かしやがったヤツ」
「でも、家族や友人同士で過ごす日でもあるんだよね?」
「ななし、世の中には恋人と過ごす日を選ぶヤツだっているんだ」
「そうなの?」
「あー、吸いてぇ」
「流石に帰ってからの方がいいだろう。もうそろそろ、行くか」
「寒いだけだった」
「これが冬の冷たさってヤツよ」
「風邪は引きたくはないがな」
「禁断症状も程々にね」
「お前だって、疲れて休んでただろーが。ななし」
「ちょっと休みたかっただけだもん」
「一先ず、さっさと帰って寝るか」
「賛成」
「部屋が温まってるといいんだがなぁ」
 あ、先週の暖房が壊れた事件。そう思いながら、雪の帰り道を歩いた。


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