冬、寒い朝(消火後)

(うぇえ、さむい)
 はっきりとchilly≠チて言葉が出た。それにゲーラも「さみぃなぁ。って、うぉ!? さびぃ!」とcold≠ゥらnippy≠ノ変わったし、メイスも「今日はもう寒くなるからな」とpretty colod≠ニ指した。段々冷えてきたけど暖房のある家だから大丈夫、外に出る分以外は買わなくていいだろう。そう早合点したのが間違いだった。プロメポリスに吹雪がきて、アパートの暖房が全部だめになった。管理人が配管業者に電話して直してもらってるところだって、Airdropの機能で住民全員に行き渡る。(えあどろ、できない人はどうなるんだろう)その場合はポストに投函か。生憎だけど、そんなことをできる余裕はない。もぞもぞと布団の中に入る。羽毛布団に毛布一枚。これが限りなくダメだった。
「うぇ、もう少し厚着をすればよかった」
「俺だって泣きてぇよ。なんで今になって壊れやがった」
「急な寒波のせいで気温差でパンッ! だろう。古ければ古いほど、経年劣化とやらで壊れやすくなるというが──、まぁ見ての通りだな」
「あっ。今日の気温、二度だって」
「はっ!? こんな真昼間なのにか!?」
「道理で外が騒がしいわけだ。家が吹き飛ばされていないだけ、僥倖だろう」
「ハリケーン? あの、台風とか竜巻」
「『竜巻』の方だな。台風の方がまだ優しいくらいだぜ」
「全然優しくはないがな。川も氾濫する。ゲーラのところだと、洪水も起こるだろう?」
「そりゃぁな。けど、ハリケーンで吹き飛ばされるよりかはマシだぜ。保険も全額落ちるかわからないしよ。水を掻き出す方がまだマシっつーか」
「色々と大変だ。保険、全額落ちないの?」
「全員に払ったら、潰れちまうだろ」
「悪徳企業も多いと聞くが、中には良心的なのもいる。まぁ、本当の一握りだがな」
「へぇ。見分けるのも大変そう」
「楽じゃないぜ」
「公務員になったら、その辺りの保証を一気にやってくれると助かるんだが。どうだか」
 ビュオ、と外で風が勢いよく吹く音が聞こえる。こういうとき、外は暴風に揉まれてくちゃくちゃになっている。砂も地面の上を飛んで行って、草も倒れる。バイクに乗っても向かい風が強い。「へっくし!」とゲーラが勢いよくクシャミをして、身を寄せてきた。
「あーあ。バーニッシュだった頃なら、燃えてどうにかできたのによ」
「全身の体温が高かったからな。サーモグラフィなら一発だ」
「げぇ。見たことあんのかよ?」
「昔に、少しな。プロメアの恩恵様様《さまさま》だな」
「服もそこまで買わずに済んだしよ」
「全くだ。気候に合わせて変えないといけないからな」
「でも楽しいよ?」
「そいつと出費は違う話なンだよ」
「ミニマリストになった方が安いか? それにしても寒いな」
「配管工事、まだ終わらないのかよ」
「渋滞が起きてるって」
「どれどれ、あぁ。雪でスリップしたか」
「後続車が次々ぶつかってンぞ。笑い事じゃねぇな、おい」
「ゲーラが車両を次々押し潰したことを思い出す」
「中に誰もなにもいなかったから、別にいいだろ?」
「犬や猫がいたら愛護団体が黙っていなかっただろうな。今でも」
「よかったね」
「よくねーよ。っつか、うっせぇ! 愛護団体怖くてマッドバーニッシュやってられっか」
「でも動物は大切にしようね」
「へいへい」
「だがヴィーガンは神経質なヤツが多いと聞く。絡まれるなよ」
「絡まれたくもねぇよ。ったく、早く直ってほしいモンだぜ」
「でも、渋滞って」
「ちょうど配管工事の車が通る道だ。今日一日は無理だろう」
「冗談キツイぜ。腹減っても食いに行くこともできねぇじゃねぇか」
「水も飲めない」
「毛布があるとはいえ、防寒に心許ないからな」
「っつーか、薄着で寝ちまったのが問題だろ」
「長袖だよ」
「今の気温と比べたら、充分薄着だ!」
「クイーンサイズで暖を取ったのが無謀だったか」
「そもそも部屋が寒くなったときで、気付くべきだったかもしれない」
 だって、寒いから一緒に寝ようって話になったからだ。「もこもこのパジャマがほしい」「俺ぁニットフリース」「俺はボアの方がいい」「もこもこ」「ニット」「ボア」主張は曲げない。買うものリストを更新しても、部屋はまだ暖かくならなかった。
「さむい」
「そりゃぁな」
「スープ飲みたい」
「缶詰ならあったはずだ」
「冷たいのでも温かいのでもできるやつ」
「あー」
「それはないな」
 買わないとないのか、残念。むぎゅっと枕を押し潰した。


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