ななしの重装備を不思議に思うボスの冬(消火後)

「あれ。なんか、今日、ななしは重装備っぽいよな?」
 クルッと腰を傾けて、ななしの顔を覗き込む。極寒の季節、冬。ななしはコート・手袋・マフラー・イヤーマフと、諸々防寒具の重装備でこの場にいた。「それがね、リオ」ポツポツとななしが諦めた顔で話し出す。
「なんか、急にゲーラとメイスが着させ始めて。それで、こうなった」
「そうか」
 リオは困ったように、はにかむ。(これはもう、本人に聞いた方が早いな)そう諦めの境地も出ていた。ななしが端的に説明することは、いつものことである。それも本人が説明する必要もないと感じたことだ。作戦や仕事のときは問題ないが、こうも日常的な場面だと困る場合もある。今回は、一番話の長くなりそうな当人たちへ話を聞くことだ。軽く頭を抱える。リオが悩んでいる原因が自分であることを、ななしは気付かない。
 元バーニッシュの子どもたちが、孤児院の中へ入っていく。子どもたちの相手をしていたゲーラとメイスは、リオとななしの元へ戻った。
「ボス! 俺らもそろそろ中へ入りましょうぜ。外じゃ冷える」
「彼らだけに任せるのも、負担がかかりますからね。中で温かいホットココアを飲むことにしましょう」
「あぁ。その前に、お前たち」
 特に退席をいわれていないので、ななしは留まる。これを利用し、リオはビシッとななしを指差した。その指の動きに、ななしは首を傾げる。
「今日のななしのコーデ、なんか重装備っぽいんだが」
 ゲーラとメイスをジト目で見る。先と変わらず、平然だ。不安に思いつつも、思い切って尋ねてみる。
「なにかあったのか?」
 そう切り出すと、二人から納得したような声が上がった。あぁ、と互いにアイコンタクトを交わさない。「あぁ」と腑に落ちた声だけが被る。ゲーラはコートのポケットに手を入れたままであり、メイスは手袋をした手で考え込む。ゲーラもメイスもイヤーマフをしているが、ゲーラのそれは帽子として機能しているのか。疑問である。「そいつぁですね」「まぁ、あれですね」思考しながら濁す二人に「なんだ」とリオが鋭く突き止める。
「説明しないと、ななしの装備を勝手に剥がすぞ」
「流石に、ちょっとマフラーを緩めたい」
「ダメに決まってんだろ!」
「それで風邪を引いたヤツが、なにをいっている!?」
 ななしが少しでも口を開くと、鋭く二人が指摘をしてきた。それにリオが黙る。合点がいった。そのままななしへ振り向き、今の症状を尋ねる。
「風邪は治ったのか?」
「まぁ、治った。うん」
「その点は心配ないですぜ。ボス。その辺りは俺たちがキッチリ完治させましたから」
「その、プロメアがいないという現状を忘れた前提で阿呆なことをしていましたからね、ソイツ。だからあれほど注意しろと」
「具体的にいうと?」
「なんか暑かったから、ちょっとマフラーとか外しただけ」
(それだけでか?)
 健康優良児に近いリオにはわからぬ。「ったく、汗で身体が冷えちまうんだぞ?」ゲーラが説明を短縮したことをいい、メイスが「外にいるときは外すなよ」とななしの緩んだマフラーを巻き直す。手厚い。当のされている本人にとっては、大きなお世話らしいが。
 一つ気になって、リオは聞いてみる。
「お前たち。まさか、そのお節介を僕に向ける気は」
「とんでもない! 俺たちはボスの気持ちを第一に考えますぜ!」
「もしボスが風邪を引いた日には、全力で看病しますので!! ご安心ください!」
「そ、そうか」
(別の意味で不安なんだが)
「大声を出し過ぎたり、慌てふためいたりしないといいね」
「ばっきゃろう! そんなこと、俺たちがするわ、け」
「いや、ボスの容態が重くなければ、どうにか脅すという事態には」
「やめろッ!!」
 自分が来る前の治安の悪いマッドバーニッシュの悪癖が出掛けた二人に、リオは思わず止めに入った。大声が空気を切り裂く。シンシンと降り積もる雪の中で声が響いたからか、通行人だけでなく、施設や近隣住居から様子を伺う視線が刺さった。これに思わず、リオは羞恥心を後悔を抱く。(しまった)自省するリオに、ゲーラとメイスは罰の悪い顔をした。自分たちのせいでリオが恥を掻いたと悟り、申し訳ない顔で話しかける。
「すみません、ボス」
「しかし、医療費が高いので。どうにか一番早く治そうと」
「いい。僕はこう見えて、大病を患う前に治す方なんだ。だから、お前たちの看病だけで充分だ。それで治る」
「ボ、ボス!」
「なんて懐のデカい!」
「犯罪にならなくてよかったね」
 流石にななしも、最近になってプロメポリスの法を頭に入れたようだった。


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