読み返す

 ゲーラが寛いでいると、ななしが通り掛かる。どこで寛ぐか探しているようだ。無言でゲーラが手招きする。それにななしが従えば、すっぽりと招いた当人の腕の中に収まった。ゲーラが三人掛けのソファを占拠する。自然と肘掛けは背凭れの代わりとなり、ななしがゲーラの足の上に座らされる。座り心地と身の置き場を確かめていると、ゲーラが手を伸ばした。慣れた手付きで靴を脱がす。ななしを裸足にさせると、自分と同じように座らせた。右手に背凭れ、背にはゲーラ。ゲーラの腰の背後に肘掛けがあり、当人の体幹で姿勢を維持している。楽をできるはななしだけだが、ソファのような座り心地はない。痩せこけた男の足の上で足を伸ばし、本を開いた。そのまま寛ぐ。背丈の高いゲーラの長い足が、ソファの幅からはみ出た。反対側の肘掛けに足首を乗せ、ダランと裸足を垂らす。見えたそれに、メイスが顔を顰めた。近付いて背凭れに手をかける。寛ぐゲーラの中身を見る。
「なにをやっているんだ」
 モフモフの癖毛は見えたものの、ななしがいるとまでは見えない。「あ?」ゲーラが視線だけを上げる。ななしは見上げた。ソファの後ろから覗き込むメイスにいう。
「本読んでた」
「あぁ、文字ばかりだな。で?」
「あ? 俺ぁ、ただ寛いでただけだぜ?」
「だったらベッドへ行け。横になるには足りないだろう」
 無言でゲーラがななしの腰に腕を回す。メイスは頭を押さえ、溜息を吐いた。
「あのなぁ」
「んだよ。別に良いじゃねぇか」
「だったら、ななし。お前、今はなにがしたい?」
「本読みたい」
「だとさ」
「べっ、別に良いじゃねぇか!」
「強引にやっても、ごねられて拗ねられるだけだと思うぞ」
 最悪、数日はお預けだ。そう言外に仄めかすメイスに、ゲーラは唸る。「ぐっ」と蛙の潰れたような声を漏らした。中断した部分を探すべく、ななしはページを触る。指で文章をなぞっても、先まで思い描いた想像がどこにもない。困ったように二人を見上げる。メイスは「知らん」と容赦なく言い放った。
「そういうのはな、読んでる本人の脳内にしかわからんことだ」
「しゃぁねぇなぁ、俺が読んでやるよ」
「おい。ゲーラ、そういうのは」
「いい。人に読まれると、読まれると読まれるで、なんか違うから」
 メイスの忠告より先にななしがいう。断られたゲーラは、ムッとした。腹癒せにななしの頬を突く。親指で頬をぐにっと押し上げた。「ひひゃひ」「うるせぇ」「まぁ、座ったところが悪かったとしかいえんな」それぞれ会話が終わる。ペラッと、ななしが一ページ前を捲った。
「もう一回読む」
「そうか」
「辞書は必要ねぇか?」
「多分大丈夫」
「それ、暫く経ったら読み返すといいぞ」
「ネタバレじゃねぇか」
「よくわかんない」
 ななしは読み返し始めた。


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