せめてボスは天蓋ベッドで

 執行猶予で街の復興を手伝うためにバーニングレスキュー隊に入ったものの、どこで寝ればいいのか。最悪食事は現場とか仕事をやりながらでもいけるけど。そういったら、この隊で一番偉いというイグニス隊長が床を指差した。
「マジか」
「雑魚寝をさせる気か! ボスにッ!!」
「そんな固い床でボスを寝かせられるか!」
「お前たち。別に慣れたことだろ」
 そういうと物悲しくなるのでいわないでください、ボス。
「そこにベッドがあるじゃないですか」
「あれはアイナの私物だ」
「私物」
「ほとんどアイナが占領しちゃってるからねぇ」
「ちょっと! 殆ど私のせいにしないでよ!! だってあるのに誰も使わないし、ちょうど寝転がったりとかするのにもよかったし」
「寝袋ならあるぞ?」
「よしきた!」
「これで勝てる!!」
「地べたに直接寝るよりかはマシだな」
「ボス。ここはもっと強欲に行きましょうよ。仮眠室はないんですか」
「お前、なんでそんなに布団とやらにこだわるんだよ……」
 ゲーラに呆れられたが、だからといって返す言葉はない。魂が求めているのだ。
「あるにはあるが、グッスリと眠る暇はないぞ」
「そりゃそうだ。なんたって、ここは火事を消すために出勤するところだ。いつだって、熱い火消し魂を燃やさなきゃいけねぇってことよ!」
「そうなのか」
「つまり? 考えたくないんだけど」
「お前のいう熟睡はないってことだ」
「残念だったな」
 追い打ちが酷くて思わず床に膝を着いちゃう。
「ひ、ひどい……」
「そんなに落ち込むことなのか?」
「ボス、コイツにとっては死活問題なのです」
「コイツ、もし平和になったらグッスリ寝るっていってやした」
「そんなにだったのか……」
「ボス。そんな目で人を見るのはやめていただきたい。時に、その憐憫の情は人を傷つける」
「そ、そうか。すまなかったな……」
「いえ、取り乱した私も悪いので……」
 スクッと立ち上がる。ごめんね、ボス。まぁ少しはわかってたことだけど。グッスリ眠れる暇なんざありもしないってことくらい。
「考えてみればわかることですし。昼夜問わず炎上活動を行っていたのに、いつもレスキュー隊が出勤していましたし」
「痩せ我慢だな」
「だな」
「そこ、人の虚勢を暴くのはやめてくれないかな」
(自覚はあるんだな)
 なぜかボスから納得されたような、目を送られた気がした。
「まぁ、アレですね。私、聞きましたから。一回は聞いたことありますから! しふととかなんたらで、一回休みは貰えることくらい!」
「ないな」
「ふぁっ!?」
「例え休みがあったとしても緊急出動はある。それがあったら否応でも現場に来てもらう」
「あばば」
「落ち着け、ななし。僕たちが猶予を出されたときにそういう説明があっただろ」
「そういう説明だったのか」
「流石ボス。頭がキレてるぜ!」
「お前たちもわかってなかったんだな……」
 ボスがなぜか私たちを見て、複雑な感情を抱いていた。
「っつか、そもそも復興作業自体終わってねぇんだし。んな休みのこといわれても」
「女の子は! 街が! 復興した後の! ことも! 考えて! 予定を立てているの!!」
「あっ、それはわかる!」
「ねー。アタシもたまにゃぁ部屋に籠って新兵器の開発に勤しみたいわぁ」
「新兵器」
「やぁねぇ。ただの思いつきよぉ。そんな金になるようなこと、するわけないじゃなぁい。まっ、終わるまでは当分メカの修理で大忙しだけどぉ」
「そっか。姉さんも他のことで手一杯だし、ウチに応援呼ぶのは無理かも」
「いや、できるかも」
「なにを根拠にいってるんだ、ななし」
「勘」
 正確にいえば直感。過去一度だけエリス博士を見たことがあるが、なんとなく、彼女。妹のためになんでもしそうな気配を感じた……。しかし実際に目にしたことがないので、『勘』との一言で片付けてしまう。
「まぁ、そういうところだ。よって当分休みもないし適当なところで寝起きしてもらう。キリキリと働いてもらうぞ」
「うぇー。せめてベッドを!」
「床で寝てられるか! せめて寝袋をボスにッ!!」
「俺たちは地べたで直でいい!」
「おっ、お前たち……!!」
「いやいや、寝袋はやるけど。隊長もそう悪ノリせずに教えてあげてくださいよ」
「えっ」
 固まって当のイグニス隊長を見ると、腕組みをしたまま仁王立ちで変わっていなかった。そしてその姿のまま「すまん、わかってて乗ってると思った」と口にした。
「ちょっと!」
「じゃぁボスは地べたに寝ることはないんだな!?」
「ボスの寝床はちゃんと用意してあるんだな!?」
「せめて天蓋ベッド! ボスに天蓋ベッド用意してあげて!!」
「おい、やめろ、やめろ! お前たち……!! 逆に僕が恥ずかしくなるからやめろ!」
「だってボス、前フリルのたっぷ」
 いおうとしたら、顔を真っ赤にしたボスに口を手で塞がれた。あっ、これは恥ずかしさで怒られるタイプ……。
「いい加減に、しろぉ!!」
 顔を真っ赤にしたボスに、私たちは数分、怒られることになった。
 私は謝罪の意を込めて正座したら、ゲーラとメイスも合わせて正座をした。それで数分だけガミガミとボスに怒られて「ほら、立て」との言葉を貰われたけど、二人だけ、立つことができなかった。
(痺れたか……)
「た、立てねぇ……!」
「これが、俺たちがボスに恥をかかせた罰ッ……!」
「なにをいってるんだ、お前ら」
 ボスは呆れた。


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