チョコレートの瓶が開かない(メイス)

 SNSでオススメの映画が回ってきた。なんだか気になって、タイトルを調べてみる。こんなに面白そうと書いてあるのに、ネトフリにもアマプラにも入ってない。(ちぇっ)代わりにメイスの提案で、それぞれの配信サイトが独自に作った映画を見ることにした。シリーズものは、また後である。今日は、ゲーラが帰ってこない。夜まで時間がかかるのらしい。メイスと一緒に、映画を見る。差別を受けた黒人女性の発射した発煙筒で、白人の男性が燃えた。ボーッと暇を潰す。メイスは煙草を吸っていて、煙を味わうのに集中しているようだった。(なんか、甘いのを食べたい)ソファから離れて、キッチンに入る。マシュマロの残量はあって、食パンもある。シナモンの瓶もあるし、これで作れそうだ。先にチョコレートの瓶を開ける。最初に味見をしようとしたら、開けれなかった。
(なんで)
 あんなに簡単に開けれたのに。映画に飽きたのか、メイスがキッチンに入ってきた。まだ煙草をプカプカ吸っている。煙草を口から離して一言「どうした」だ。こっちが聞きたい。
「開かない」
 固いチョコレートの瓶を見せれば「ふーん」とした目付きで、煙草を戻した。唇に煙草を挟んで一言「貸してみろ」そういいながら、近付いてくる。「んっ」と煙草を咥えながら、手を差し出してきた。貸せ、と。試しに貸してみる。
「んっ」
 眉間に皺が寄った。煙草の灰がポロッと落ちて、両手に力を入れている。グッと噛み締めたのか、煙草がヘナっと折れた。同時に、キュポッと蓋が開く音がする。キュルキュルと蓋が回って、チョコレートの瓶が開いた。
「ほらよ」
「あ、ありがとう」
 これでようやく食べれる。チョコレートの瓶に指を突っ込んで、一口舐めてみた。
「二人分は、あるか」
「食べるの?」
「そのつもりだ。で、他にはどうする?」
「焼いてマーガリンを塗る」
 先にトーストを用意しないと、次の作業に進めない。そこまでいうと「ほう」とメイスが頷いた。煙草を指に挟んで、咥え直す。皿がもう一枚出てきた。後ろで、悲鳴が聞こえる。どうやら一時停止をしたわけじゃなさそうだ。
「映画、今ってどのくらいな感じ?」
「さぁな。被害者が加害者と疑われて、さらにどんでん返しだ」
 そういう展開が待っているんだろう、と。そういいながらグッと近付いてきた。煙草が怖い。背中にくっつく前に、メイスが頭に手を置いてくる。グイッと首を反らさせてきた。煙草が遠ざかる。シンクに置いた空き缶に、トントンと灰を落とした。
「あとで見返すか?」
 目線は煙草にある。やっぱ、まだ吸いたかったのかな。
「見逃したところなら。なんか、洗うの大変そう」
「このまま捨てるから平気だ」
「いいのかなぁ」
「そういう地域だから、心配ない」
 それはそれで、いいのか? そう思いながら、灰の落ちた空き缶を眺めた。


<< top >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -