散歩の道中(消火後)

 プロメポリスは、大きな区に分けて名前を付けているのらしい。ミドルネームみたいなものだと、ゲーラが教えてくれた。私を後ろから抱えて教えてくれたのは、謎である。さらにあっぱーいーすとなるものは、色んなヤツのすごいみたいだ。メイスがもう少し、噛み砕いて話していたような気がする。「色んな人種が地球上にいて、そいつらの言葉も文化も違う」なんだか小難しい話になったところで、ゲーラが「要するに」と纏めたような気もする。要するに、ストリートごとに色んな文化と食事が分かれているのらしい。色んな人が住むから、彼らのテリトリーに合わせた食事や商品を提供していると、のことみたいだ。歩いてみれば、実感する。復興が進むうちに、元の姿にも戻るのらしい。同じ道で同じものかと思ったら、もう違うものに変わっていた。
 出している商品や、飾り付けも違う。変わり映えした光景に目を奪われてたら、少し気になるものが見えた。
(あっ。クレープ)
 バーニッシュだった頃と、村にいた頃。この二つにおいて見かけたことは、ほぼない。冷凍だったり生もののお菓子として見かけた記憶も、ない。ただ、クレープだけで店を出すのが珍しい。し、それに懐かしさも覚えた。足を止める。ジッと見ていたからか、二人が足を止めた。
「パラチンケ、か」
「えっ」
「その店の名前だ。気になるのか?」
(待って)
 クレープではない名前が出てきて、軽く混乱する。ぱらちん、け? それは私の知る名前じゃない。目を凝らしてメニューの方を見ると、ちょっと独特な記号を添えて"PalaCinke"と書かれてあった。『パラチンケ』だ。でも、見た目は私の知るクレープと似てる。
「寄ってみっか?」
 答えにくい私に気を遣ってくれたのらしいゲーラが、助け船を出してくれる。ありがたい。それに甘えて、一つ頷く。メイスはスンとした表情をしてるけど、私の方は混乱だ。そうクールに振る舞えない。パラチンケ? クレープの間違いじゃないのか。そう思いながら、店に近付く。カウンターとなる窓が開いている。「いらっしゃい」と店員さんが声をかけてくれた。
 ゲーラがカウンターの板をジッと見ている。もしかして、そこにメニューがあるとか?
「やっすいな」
「名前が長いほど高い。まっ、当たり前か」
「なにがあるの?」
 二人だけで見て、話を終わらせないでほしい。ちょっと間に割り込むと、カウンターにあるメニューの全体が見えた。
「向こうにかけてあるだろう」
「中身が違うかもしれない」
「しれねぇなぁ。読めっか?」
「一応」
 基本的な単語は読めるけど、知らない単語については想像するしかない。「ヌテラ」と呟くと「ナッツとチョコレートのバターみたいなもの」と店員さんに返される。プラムは、なんだろう。フルーツかな。
「この、大きい文字の下に小さく書かれてるのと、プラスとプラスの。入ってる材料?」
 拙く繋ぎ合わせると、そうだと店員さんが返す。ゲーラとメイスがメニューを覗き込んできた。
「正解だぜ」
「小文字で書かれている分と、プラスの記号で表記している分がそうだな」
 丁寧にメイスが言い直してくれた。それで繋がるのか、なるほど。今度それに直しておこう。「へぇ」と頷いて、なにを頼むか考える。カウンターの向こうで、ジュウッと音がする。クレープを焼いていた。
(モチッとして、美味しそう)
 私の知るクレープよりも、ちょっと厚い。焼いたのを重ねる様子を見て、なんか思い出した。
「みるくれーぷ」
「あ? 抱かれてぇって?」
「阿呆か。クリームとジャムだけのものならあるぞ」
「安い?」
「安いな。ジャムは五種類から一つだけ選べる」
「逆にクリームの種類が変わると値段が変わるな。ホイップクリームが一番安いみたいだぜ」
「じゃあ、生クリームとブルーベリーで」
「俺ぁチェリー」
「こっちはマーマレードで頼む」
 あれ? 生クリームは? そう思いながら、クレープを仕上げていくのを眺めた。


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