ポッキー&プリッツの日

「今日は、向こうの国だと『ポッキーの日』らしいな」
 突然、メイスがそんなことをいいだした。思わず、ポツリと食べていたものを折ってしまう。ゲーラも同じように折っていた。口に入ってた分と手に持ってる分。元は同じ一本だったというのに。私たちがキョトンとしているのを見てか、メイスが悩み出すような真似をする。
「いや『プリッツの日』だったか? どっちにしろ、同じことらしい」
「どこがだよ。どこも同じじゃねぇだろ」
「ぷりっつ、プリーツ?」
「スカートのヒダのことじゃないぞ。『プリッツ』というお菓子の名前らしい」
「そこまで教えるこたぁねぇだろ。ガキじゃねぇんだしよ」
 で、とゲーラがもう一本を食べながら尋ねる。聞いた拍子でか、ポキッとお菓子が落ちた。ついでにお菓子のカスも落ちる。あとで掃除するのが大変そうだなぁ。
「ポッキーだかプリッツの日がどうしたって? なんか特別なことでもあるのかよ?」
「いや、ないが? 強いていえば、そこの菓子製造メーカーが作った記念日みたいだな」
「ふぅん?」
「でも」
 やべっ。つい思ったこと口にしちゃった。このまま引き下がれないので、このままいう。
「わざわざいうなんて、変なの」
「そいつぁ俺も思った」
「まぁな。いうにもそれなりの訳がある」
 そう吹っ切れたような顔をして、メイスが封を開けた。いや、開き直った? よくわからない。とりあえず、チョコレートのかかってない細い棒のお菓子を咥えた。緑色の箱で、英語で『サラダ味』と書かれている。チョコレートもなにもかかってないのを咥えて、ツイっとこっちに切っ先を突き出す。
「こう、恋人同士で端から食べ合うものだとよ」
「なっ!?」
「こいびと」
「まぁ、仲の良い同士でやるのらしい」
 なるほど。確かに、仲は良い。「いや、仲は良くても別の意味だろ」「別にいいだろ」と二人はやり取りをしているけど、他の人と比べたら良いと思う。リオの場合と、また別で。なんか、そういう風に感じる。肌での感じ方だけど。ソファに座り直し、もう一本食べる。やっぱり『抹茶味』というのは一味変わってて美味しい。甘味の中に仄かな緑茶の苦味が混ざるのが、なんともいえない。味わってると、メイスがもう一回切っ先を見せてくる。それから、スッと両目を閉じた。
「ほら、やってくれんのか?」
「おい、メイス。そういうのは、無理強いするもんじゃねぇと思うぜ?」
「お前にいわれたくはないな。自分はどうだったんだ?」
「うっ、るせぇ!」
「ほれ、ななし」
 とメイスが催促するから、仕方ない。「仕方ないなぁ」といいつつ、端を咥える。端から食べて、食べ合うんだっけ? ポリッと食べ進めると、メイスも食べ進める。どうやら、互いに食べるスピードが違うようだ。三口くらい食べてから、ポキッとプリッツを折った。
「はっ?」
「あ?」
「えっ?」
 なんで驚くの? とりあえず、メイスのプリッツから奪った三口分を食べる。ゲーラは混乱していて、メイスは固まっているようだった。端を食いちぎられたプリッツを咥えたまま、動かない。(ふやけないのかな)ゴクンと噛んだ分を飲み込みながら、話を付け加えた。
「えっと、口の中がいっぱいになるから? それで」
「は?」
「いや、そういうゲームじゃねぇだろ。違うのか?」
「違うに決まっているだろ」
 どうやら違うようだ。ゲーラの「違うのか」に対して「違う」が返ってきて、いったいどこから否定が始まって肯定が起きているのかがわからない。もう一本食べようとする。ゲーラの迷う視線が、私に突き刺さった。でも食べる。口直しにチョコレートの方を食べていると、不服そうにメイスが残りを食べた。
「クソッ。こんなはずでは」
「まぁ、口に出さねぇ限り無理だろうよ」
「だったらお前もやってみろ。最後までやれたらな」
「あ?」
 なんか売り言葉に買い言葉みたいなことをしている。キレたゲーラが不服そうなメイスを睨んだあと、クイッとこっちにポッキーを見せてきた。食べ差しである。もう既に短い。
「なぁ、ななし。コイツを食べるゲームみたいだぜ?」
「おいおい。そういうことをするか? 普通。もう少し頭を使ってみせたらどうなんだ」
「るっせぇ! 相手の動きを見て策を練るってぇのが、ゲームの必勝法ってモンよ!!」
「それはそうだがな」
 喋ってるものだから、ポッキーがゲーラの手に離れたりする。食べないんだろうか? それなら一層のこと、新しいのを食べればいいのに。ゲーラが食べ差しを口に咥え直して、また切っ先を見せる。先に食べ終えればいいのに。「仕方ないなぁ」とまたいってから、ゲーラのポッキーの端を咥えた。
(さっきと変わらない)
 それに、チョコレートの面積も狭い。これじゃぁ、新しく食べた方がマシだ。ポキッと折ってから食べた一口分を食べた。
「あぁ!?」
「クッ、ほれ見ろ。いわんこっちゃない」
「ぐぅ、ななし! もう一勝負だ!!」
「やだ。ポッキー食べたい」
 断りながら、チョコレートのかかった真新しい一本を食べた。


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