アイス要求(ゲーラ)

「なぁ、ななし。アイス食うか?」
 スッとゲーラが例のものを差し出す。ななしは頼んでいない。スーパーやデリ、コンビニなどに並ぶバケツアイスだ。その姿を認めて、パッとななしの目が輝いた。
「食べる」
 即答である。しかし、すぐに顔を顰めた。
「でも、全部は無理。一口とか、カップサイズに」
「あー? 食えねぇのかよ」
「無理。だって、もう寒いし」
 夏ほどたくさん食べられない、と毛布に潜り込んだ。室内の暖房はかけっ放しだ。冬に出かけるときも同様である。逆に切ってしまうと、凍結した全棟分の修理費を請求されてしまう。仕方なし、にだ。「あったけぇだろ」とゲーラが室温に対していう。「そっちは」とななしが返した。
「さっきまで、換気してたから寒いの」
「おいおい。暖房の形無しじゃねーか」
「凍結してないだけマシだと思う」
「まだ凍るほどの気温じゃねぇよ」
 馬鹿か、と心の中でぼやく。キッチンでディッシャーを取り出し、用意した皿にアイスを落とす。ガラス製だ。深みがあり、溶けたものでも包んでくれる。そこへスプーンを添え、アイスを片付ける。ご要望の品を持って、リビングに戻った。相変わらず、ななしはソファの上で毛布に包まれている。
「ほらよ」
「ありがとう。炬燵にアイスって、思い出すね」
「あ?」
「『ガンガンに温めた部屋で食べる冷たいものは最高』って意味だよ。転じて冬の季節に快適な部屋で食べるアイスは美味い」
「アイス限定かよ」
「夏の冷たいものとか。トマトとか、スイカ?」
「ウォーターメロンは知らねぇが、トマトは冬でも食うだろ」
「温かいスープにしてね。でも、アイスはスープに入れないじゃん」
「溶けンだろ。バニラスープの出来上がりだぜ?」
「そういったの、あったっけ?」
「パンと一緒に食う分にゃぁ、美味そうだな」
「それなら焼き立てのトーストに、乗せた方がいい」
「あー、だな」
 正論である。(メイスの入れ知恵か?)疑問に思い、ななしの頬を突く。「やぁ」といってななしがプイッと顔を反らした。アイスを口に運ぶ。のそのそと近付き、ななしを自分の足へ座らせた。ズイッと引き寄せれば、素直に座る。ななしの腹に腕を回し、顎を乗せた。ななしが迷惑そうにする。
「食べにくい」
「くれよ。買ったのはこっちだぜ?」
「でもくれたじゃん」
「それとこれとは別だっつーの」
 あー、と口を開くゲーラにななしは困った。


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