【R-15】暑いから全裸日和(消火後)

 裸でいた方が過ごしやすい気候って、どうなんだろう。服や下着を身に付けたときより、汗のべたつく感じがない。肌に張り付かず、スゥっと体が熱を飛ばして乾く。(今日一日、これで過ごした方が過ごしやすいかも)最近、異常気象もひどいし。リビングに入って、テレビを付ける。どこも天気予報なんてやってない。消した。部屋に戻って、スマートフォンを触る。デスクトップの天気を触ると、今日の気温と空模様が出た。(カラッと晴れて、澄み渡る空。洗濯物は乾くでしょう)そう文章を直していると、のろのろとベッドから腕が出てきた。腰に巻き付こうとしていたので、そっと外す。シーツへ戻そうとしたら、ギュッと手を握ってきた。でも寝ているから、力が弱い。ちょっとだけホールドする指を指で握り返したり、触ったりする。それをしてから、スルリと。抜けると、眉間に皺を寄せた、ような気がした。
 キッチンに入る。今日は晴天だし、今日も気温が異常だ。喉もカラカラだし、なにか飲みたい。冷蔵庫を開ける。ミネラルウォーターが残っていた。でも、残りが心許ない。これを買いに行くときだけは、服を着る必要があるかも。
(裸の方が楽なのに)
 それに過ごしやすい。と思ってたらゲーラが起きた。こっちはパンツを履いてる。それ以外は裸だけど。寝惚けて大きく欠伸をしながら、お腹を掻いてる。相変わらず、すごく痩せてるなぁ。ボーッと眠っていた目が薄く開いて、こっちを見る。その瞬間、ギョッと見開いた。
「ばっ! ば、ば、ば」
 バーニッシュの頃だったら、すぐボッと火が出るはずである。でも、もうバーニッシュじゃないから出ない。ゲーラの混乱を示す炎の揺らぎも、見られない。ボッと顔を赤くして、ワタワタと手を動かす。自分の肩や胸を叩いているようだけど、パンパンッと叩く音が聞こえるだけである。「ばっ」とまた口を開けて全身を震わせたあと、バッと部屋に戻った。バシン! と音がして、バタン! と勢いよく閉まる音がした。すぐに戻る。手にシャツを持っていた。
「バッキャロウ!!」
 そう罵声を一つ吐きながら、ゲーラが私にシャツを被せてきた。頭からスポッと、シャツが体に通る。けど腕はコップを持っていたままだから、不自然に着る形となる。ポコッと胸のところだけシャツが盛り上がった。
(なんか、生乾きの臭いがする)
 どんなに暑くても、冷房が効いた部屋だ。乾燥機の強さで自然乾燥──は、望めない。少し顔を寄せて、もう一度匂いを嗅ぐ。やっぱり、湿ったまま乾燥したような臭いがした。
「なんか、湿った匂いがする」
「る、っせぇ!! それしかなかったんだから仕方ねぇだろ!」
「そうかなぁ」
 クローゼットを開ければ、あったように思えるけど。もぞもぞとコップを出す。「ばっ」とまたゲーラが開きかけて、顔に血をドンドンと昇らせていった。
 火山の中に入ったときのように、顔が赤くなってる。「バッキャロウ」と叫ぶ前の顔をしたまま、私をガン見していた。なんで目が釘付け、みたいになってるんだろう? シャツの裾を上げて腕を出したあと、コップを置いた。
 シンクに汗が垂れる。シャツの袖に腕を通し終えると、今度は小刻みに震え出した。まだ、凝視しているけど。なにをそんなに見るんだろう。怪しそうに見上げると、ゲーラの口が震えた。
「めっ、目に毒なことを、してんじゃねぇ」
「毒なの?」
「おう」
 あ、目を逸らした。しばらくして、口を手で覆って隠す。なにか、思い当たるところとか悩むところがあるんだろうか? ボトルを軽く揺らし、最後のミネラルウォーターを注ぐ。
「いつも見てるのに?」
「いっ!」
 あ、手を離した。隠れた口はへの字に曲がっていた。キッと釣り上げた眉も、情けなく垂れる。
「つも、見てるっつーか、なんつーか。そういうのとは、なんか。ちげぇだろ」
 声がどんどん小さくなる。あ、今度は顔を逸らした。また手で口を隠す。今度は、耳まで真っ赤だ。
(いつも見てるのに嫌がるなんて、どうしてだろう)
 顔に血が集まってるほどだし。ミネラルウォーターを飲む。なにも話さないで過ごしていたら、メイスが起き出した。こっちは、ジーパンを履いている。上半身は裸のままだけど。ガシガシと頭を掻いて、軽く欠伸をしている。あ、こっとに気付いた。目をしばしばさせている。
「なにをしているんだ」
 のっそりと近付いて、空のボトルを掴む。「俺の分は」と呟くから「ないよ」とだけ答えた。ギュッと顔を顰め始めている。
「買い出す必要があるのか」
「ネット通販の手もあるよ」
「全裸のまま出ようとするんじゃねぇぞ」
「待たなきゃならんだろう。は? 裸?」
 寝惚け眼が一瞬だけ起きる。三白眼は相変わらずだけど、少しだけキョトンとしていたような、気がした。ゲーラはなにも答えない。腕を組んで、顔を逸らした。
「シャワー浴びに行くにしても、服を着た方がいいだろ。そうは思わねぇか?」
「は? まぁ、近い方なら全裸でも行ける気はするが。ホテルとか」
「ちっげぇだろ!! 今における話だよ!!」
「はぁ? あ、あぁ。そういうことか」
 ようやく飲み込めたぞ、といわんばかりに頭を抱える。私から離れた。空のボトルは持ったままだけど。
「別に、抱きやすいから問題はないだろう?」
「んっ、な問題じゃねぇよ! この阿呆ッ!!」
 顔を真っ赤にしたゲーラのツッコミがキレた。


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