ビーフくっきー

 どうやら、テレビの中では『くっきぃもんすたぁ』というモンスターがいるのらしい。村の子どもたちがいっていた。それにしても、極東の島国から輸入したというお菓子は美味しい。確か、そこに本社があって、そこで作ってるクッキーだったか。バターとミルクのコクがあって、頬張れば口で溶ける。こんなに美味しいのに、入ってる量は少なかった。
「クッキーモンスターみてぇな食い方を、するんじゃねぇぞ」
 気だるげに、ゲーラがそんなことを言い出した。アーモンドクッキーは、アーモンドの粉末とナッツの味わいがとても美味しい。ゴクリと飲み込み、袋の中に残るクズを口へ流す。
「そうはならんだろう。ボロボロと零してもないぞ?」
 後ろからメイスがいう。キッチンでなにをしてた、と思ったら水。グラスに一杯の水が注がれていた。
「ありがとう」
「どうも。我儘なお嬢さん」
「それ、やめて」
「なら、我儘なプリンセスだ」
「プリンセス、ねぇ」
「ちょっと」
「ミルクじゃねぇのか?」
「牛乳だと、流れてしまう恐れがあるだろう」
「なにがだよ」
「味がだ」
「むっ」
 もう一枚を食べようと思ったら、なかった。箱を揺らしても、音はなし。中を覗き込んでも、クッキーの一枚もない。個別の包装紙に入った形跡もなかった。全部私のお腹の中。どうやら、ゲーラとメイスの分も食べてしまったのらしい。
「ごめん」
「いいってことよ」
「俺らには、肉があるからな」
 そういって、焼いた肉の塊を取り出した。紐で縛ってある。ガーリックに、野菜とハーブの香り。レモンの香りも微かにした。(なにを入れたんだろう)香りの正体について考えたら、まな板が現れる。シュッとテーブルに置かれて、ドンと重く肉が乗る。それから、スタイリッシュに出現したナイフが現れた。お披露目である。それに「はよ切れ」とゲーラが不満を出した。「まぁ、慌てるな」とメイスがいう。少し間を空けてから、メイスが切り出した。
 ゆっくりと、肉に刃物が滑る。ムワッと煮込んだ肉の旨味の香りが溢れ出す、なんてことはなくて。ただ、半分焼けたみたいな肉の断面が現れた。
「食べれるの? これ」
「食えるに決まってンだろ」
「自家製だからな。ちゃんと火は通ってるぞ」
「そうなんだ」
 なら、大丈夫なのか? そう思ったら、二切れ分。ゲーラとメイスの手に渡った。残念ながら、こちらに酒という大層なものはない。
「そのまま食べるの?」
「ビスケットに挟む分としちゃ、不味いだろ」
「それにお前の不服も買う」
「まぁ、そうだけど」
 でも、肉を食べてる前でケーキを食べるのって。そんな例えを思いながら、チョコレートクッキーを口に入れようとした。食べれない。メインディッシュの前でデザートを食べるようなものだからだ。
「ねぇ」
「あん?」
「どうした」
「目の前で、食べないでよ」
 そう不満を零したら、フッと二人が笑い飛ばした。


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