おもち

「お前たち。土産だ」
 そういって、ボスがピザの箱を見せてきた。ふやけたのか、少し箱は濡れてひしゃげている。
「あれ。今日は自宅待機の日じゃなかったっけ」
「あー!!」
「それでも周辺に買いにでかけることはできる。少し、入り用があったんでな」
「で、それはどうしたんですか?」
「貰った。ガロに」
 と一拍置いてから、ボスがピザを置いた。テーブルに。因みに叫んだゲーラは負けていた。なんというか、弱い。
「もう少し練習したら?」
「手前ぇが強すぎんだろ、クソッ」
「やり込みの差で負けたんだろう。プレイ時間も違うしな」
「そういうメイスは、中々しぶとかったよね」
「フッ。元マッドバーニッシュの頭脳担当だったからな」
「ちっくしょぉ」
「で、食べるか?」
「食べる」
 パカッと開いたものだから振り向く。既にピザの箱は開かれていて、中身が出ていた。ピザだ。けれども見慣れないような──でもどこか懐かしいようなものが、乗っている。
「これは?」
 メイスが尋ねる。メイスが指差すよりも前に、ゲーラが一切れを取った。
「普通のピザのようだが、なんか。見慣れねぇモンがあるな」
「それ思った。なに?」
「『モチ』というものらしい。極東の島国だと、年明けに食べるのらしい」
「へぇ、変わった風習ですね」
 とメイスが頷く。その横でゲーラが「食い物か」とボヤいた。もち、モチ。英語に直すとMOCHIだ。なんか、懐かしい響きである。ゲーラに続いて一切れを取ると、焼き立ての匂いがした。
「食べれる、よね?」
「あぁ、食べれるとも」
「しかし、この辺りじゃ見かけないものだな」
「ガロが件のピザ屋に、特注で作ってくれたものらしいぞ」
「あー、あそこのピザ屋っすか。確かに、あそこのピザは世界一っすもんね」
「でも、一から?」
「いや、調べたレシピを渡したのらしい」
「へぇ」
「無駄に行動力があるな」
 そうチクリと棘を刺したが、気にしないでおく。メイスからゲーラに視線を移すと、もう食べていた。私も食べる。ピザはピザだ。そして、伸びるチーズとトマトの酸味と旨味も味わえるソースと一緒に、餅の柔らかさを感じた。
「なんか、モッチモチとしてんな。生地じゃなくてよ」
「それが『モチ』の由来らしいぞ」
「そんな馬鹿な。ん、ム。俄かには、信じがたいな」
 今度は神妙な顔をした。その横では、ゲーラは無頓着そうに「へぇ」と頷いてピザを食べ進めていた。私は、懐かしさで食が進んだのか、もう二切れ目を取っていた。頬張る。
「美味しい」
「それはよかった」
「珍しいな、お前がそこまで食うなんて」
「んじゃ、今度買ってきてやろうか?」
「うーん」
「あったらの話だな。大ブレイクしたら、もしかしたら店に置いてあるのかもしれないな」
 大ブレイクをしたらな、とボスが繰り返しそういう。一点ものでオーダーした作品は、そう中々と量産できないのらしい。やはり需要と供給が必要か。そう読んだ本の中身を思い出しながら、私は最後の二切れ目を食べた。
「なら、俺たちで作ってみるか?」
「まずは『モチ』の入手経路をだな」
「というか、普通に焼いて食べれるらしいぞ。そっちの方が手っ取り早い」
 焼くのらしい、とボスは付け加えた。
「ショーユとやらで濡らすのらしい」
「へぇ」
「聞いたこともないですね」
「それも極東の島国にあるものらしい。ななしは、知っているか?」
「お醤油」
 それ以外に説明する言葉を持たない。簡単にそう答えながら、三切れ目を食べた。
「近くのスーパーに売ってるかねぇ」
「いや、輸入食品でないと探せないだろう。少し、調べてみるか」
「調べものはメイスに任せるとしよう。とりあえず、僕も食べるか。うん」
 美味い、とボスは一口を食べたあとにそういった。まだ、お餅も食べてないのに。
「ボス。そこも美味しいですよ」
「それはななしの様子を見ればわかる」
「なんつーか、キャラメルとは違ぇよな? こう」
「歯にくっつかない」
「そうそう、それ」
「それと、もっちりもしている」
「それな」
「あと」
「食ったこともねぇ味がする。美味ぇな」
「確かに、素朴というには違いすぎる」
「極東の島国の食べ物、興味深いな」
 そう初めての感想を三人が零した。


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