イブの翌日

 起きると、さっぱりとしながらもジューシーな匂いがした。もぞもぞとベッドの中で動くと、冷めたシーツに触れる。その中で時間を探すと、時計に触った。時刻を確認する。もう朝の十時だ。
(起きなきゃ)
 寝不足の頭を抱え、ベッドから這い出る。地味に寒い。クローゼットから暖かい部屋着を取り出して、それに着替えた。扉に近付くと、美味しそうな匂いがまた強くなる。
(なにか、焼いているのかな)
 オーブンは万能だ。ペタペタと履き替えたスリッパでリビングに向かうと、キッチンはてんてこ舞いだった。ボスがオーブンの前でしゃがみこみ、メイスが芋を切り続けている。ゲーラはというと、リビングのソファで茹でた芋を潰していた。テーブルには芋の皮を剥いた残骸がある。
「よう。ようやく起きたのか」
「んー」
「もう作り始めてるぞ」
 早く顔を洗ってこい、とゲーラが顎でしゃくってくる。でもその前に眠い。ゲーラの腕にあるボウルを覗き込む。
「まっしゅどぽてと?」
「見りゃわかんだろ」
「食べるの?」
「晩飯にだ」
「お昼は」
「試作品ならあるぞ」
 ひょこっとボスがキッチンから顔を出していう。なるほど、そのオーブンの中が試作品ということ? そう思いながら目を擦る。
「ってか、せいどういんだね」
「総動員な。ななし、手前ぇ。忘れてんだろ」
「へ、なにが?」
「夕飯のことだ。夕方からクリスマスパーティーをするために、朝から準備をすると前々からいってただろ」
 お前にも色々と手伝ってもらうぞ。とキッチンにいるメイスが続けていう。なるほど。だから朝から色々と働いてたんだ。
「持ち寄り?」
「ここでやるんだよ」
 そういうと、ゲーラは立ち上がった。マッシュドポテトを作りながらだ。キッチンに向かい、メイスと何やら話している。どうやら大きな鍋が必要なようだ。ドンッとコンロに大きな鍋が出現した。それをボスがオーブンから顔を上げ、二人のやり取りを見てる。
 私はというと、その様子を見てから顔を洗いにいった。歯を磨いても顔を洗っても、相変わらず美味しそうな匂いがする。そして口の中には未だに、吐き出された苦い精液の味が残っているのであった。


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