カレンダーの撮影

「かれんだー?」
 撮影直後、アイナ女史から唐突に聞かれる。聞き返すと、パンッと手を合わせて「そうなの!」と返された。
「いつもこの時期になると、女性隊員がメインのも! って意見が寄せられてね。特に今年は、ななしが入ったから余計に」
「ウチも三人になったからねぇ。女だけで数えっと。それで回せると思ったんじゃない?」
 向こうも、と。ルチア博士が付け加える。どうやら匿名のお便りでも結構寄せられているようだ。イケメンだけではなく美女も出せ、と。
(果たして、私も美女に入るんだろうか)
 そんなことを思っていると、玉座から下りたボスが近付いてきた。
「どうしたんだ、いったい」
「ボス。いえ、追加の撮影の案件があるらしくって」
「野郎は楽にしてりゃぁいいよぉ。特に撮ることないから」
「女性がメインだからね。ハハッ」
「でも危なくないか? 僕たち男性より女性の方が面倒事に巻き込まれるのが多いだろう?」
「だから野郎も入れるんだよ。ただ、割合アタシたちの方が多いってだけで」
「ただ二パターン出るってだけだと思うよ」
「ふぅん。それなら大丈夫そうだが。あぁ、ななし。ちゃんと話は聞いていたか?」
「えっ。あ、ごめん。今夜のおかずのことを考えてた」
「今夜って、お前なぁ」
「そもそも、今日は勤務日だから家に帰れないよ? ちゃんと仮眠を取ろうね?」
「あ、うん。気を付ける」
「ウチに入った以上、体調管理もしっかりと気を付けなきゃいけないからねぇ。まぁ、あのセットを持ってきた撮影陣には驚いたけど」
 まさかあれほどまでとは、とルチア博士がぼやく。それに釣られて振り返れば、ボスの座ってた玉座が片付けられていた。
「無理せず揃えるのは、この日だけだもんね」
「そうそう。それに、火災や人災も少ない時期だからねぇ。撮るのに持って来いなんでしょ?」
「次の撮影日は、来月くらいまでになりそうだけどね」
「大変だなぁ」
「あぁ。でも、こうして孤児院とかボランティア団体への寄付金になるのだろう? 良いことじゃないか」
「ボスはわかってないなぁ」
「うん?」
「ストーカーとか出るに決まってるじゃないですか。面倒なのに捕まると」
「ななしはそういうことあるのか?」
 その質問に、固まってしまう。確かにあったような気もするし、そうでないような気がする。そもそも、あったような気がしても、いつのまにかいなくなったという感じだ。自然消滅というか。
「とにかく、気を付けた方がいいですよ」
「ふぅん」
「その手の話題は、結構尽きないよね。現に被害に遭ってる人もいるし」
「アイナの姉ちゃんがなんとかしてくれるような気もするけどね。アイナの場合は」
「ちょっと、ルチア。エリスまで危険なことに巻き込まれるじゃない。警察に通報が一番だよ、一番」
「あー、そうだねぇ」
「ボスも危なかったら、信頼できる人のところに行くんですよ」
「あー、そうだな。お前の場合は」
 チラッとボスの視線が他所を向く。その視線の先を辿れば、ゲーラとメイスがいた。
「アイツらがいるから、大丈夫そうだな」
「なんですか、それ」
「あ、でも。あれには驚いたね。最近、マッドバーニッシュっていうの? そのトップ三人が人気ってヤツ」
「バーニングレスキューに入ったから、今までのイメージが違うのになったんだろうね。なんというか、ビジュアル系?」
「僕たちは遊びでやってたわけじゃないんだぞ」
「わかってるよ」
「今はそういう見方だってこと。だからアンタらが纏めて写真撮るのも受け入れられてたんだよ」
「そうなんだ。じゃぁ、私はいない方がよかったのかな」
「いや、アンタの場合は」
「おい、ななし。手前ぇ、まだ食ってねぇだろ」
「飯抜きは辛いぞ。今すぐ食え」
「あー、わかったー。じゃ、そういうことで行くね」
「あー、うん。そういうことだから、潜在的に潰されてんだよねぇ」
 と、最後にルチア博士がしみじみといっていたが、どういうことだろうか。
 トンッと階段を上がって休憩室のスペースに入る。ゲーラとメイスはキッチンで寛いでいた。
「ほれ」
「っと、危ないなぁ」
「キャッチできたからセーフだろ」
「それはそうだけど。あ、ミルクある?」
「シェイクしかねぇな」
「それかココアか珈琲だ」
 しかもホットだけだ、とメイスが付け加える。アイスを飲みたい気分なんだよなぁ、今。
「というか、なんでシェイクがあるの?」
「買った」
「誰かさんが寝坊したおかげでな」
 チクリ、と。今朝のことに関して釘も刺された。


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