レモンスカッシュ17才(さなげやま)

 カレンダーを捲る。私の誕生日もここだから、もう十七歳になるか。ぼうっと、そんなことを考える。色々とあったな。服装を整えてから、生徒会室に向かった。適当に飲み物を作るなら、あそこのバーを使った方が早い。ピアニストは、滅多にいないけど。カウンターに入り、材料を探す。冷蔵庫を開けば、新鮮なレモン。ミントも新しいのだ。恐らく、古いのはスラム街の闇市にでも流れたんだろう。それが搬入者の特典か。まぁ、そこから情報が洩れることも食べ物が勿体ないことになることもないから、いいけど。
 レモン一個と、ハチミツの瓶。ミントは傍らに置いて。炭酸水も、新しいのを取り出す。ちょうど五百ミリリットル。まぁ、二杯分飲めばいいか。果実を絞る用の道具を出して、切ったレモンをそこに刺す。ギュッギュッと。果実が零れて種が漏れる。あとで出せばいいや。爽やかな酸味が舌を刺激する。匂いだけでもわかる鮮度だ。一滴残さず搾り終えると、種を捨てた。ポイっと、ゴミ箱に。とりあえずガラスのボウルに、レモン一個分の果汁とハチミツの適量を注いで掻き混ぜる。あとは、水差しに注いで、炭酸水を注ぐ。これで注げば完成だ。
 レモンスカッシュの、ミント添える前の完成。
「なんだ。そんなところにいたのかよ」
 グラスを取り出そうとしたら、先輩が生徒会室に入ってきた。少し、着崩している。「先輩」と伝えてから、座る先輩にいう。
「ちゃんと着てください。身なり、整えてください」
「仕方ねぇだろぉ? 急いで着ちまったんだからよ」
「そうですか。そのまま、ここまで?」
「おう。道中誰も会わなかったから、セーフだろ」
 まぁ、そうだけど。口に出すのは癪なので、苦い顔だけを返す。先輩は頬杖を突いて、こっちを見るだけだ。コートに腕は通さず、肩にかけているだけ。それでよく、コートが落ちなかったな? いや、肩の重みで逆に落ちなかったのか。そんなことを考えながら、グラスを出す。
「なんだ、それ」
「レモンスカッシュ。飲み物ですよ」
「見りゃわかるだろ。ソイツの名前だよ。名前」
「レモンスカッシュ」
 さっきいったばかりだろ。と思いつつ、グラスに中身を注ぐ。
「俺の分はねぇのかよ?」
「ありますよ。どうぞ」
 グラスをもう一つ出し、同じように注ぐ。最後に氷を注いで完成。少し順序は逆になったが、まぁいいか。ミントを添える。
「ほら」
「おう。わりぃな」
「なら、もう少し反省の色を」
「サンキュ」
 感謝の気持ちか。少し勝手が悪い。居心地の悪さを感じながら、自分の分を飲む。うん、美味しい。流石鬼龍院家の支配する学園の生徒会室にある分だけは、ある。プロが作ったら、もっと美味しいんだろうけど。そんなことを思ったら、先輩が飲む振りをする。グラスを口に近付けて、スンと嗅いだだけで置く。
「もしかして、苦手だったり?」
「なぁ。今日ってお前の誕生日だったりするのか? さっき、数字呟いてただろ」
「それがなにか、って。さっきっていつですか?」
「カレンダー見てただろ」
 見てたのか。突っ込む暇もなく、先輩が続ける。
「『もう十七』みてぇなこと、見ながらいってたじゃねぇか」
「そうですが、って。それがなんですか。別に関係な」
 い、といおうとした寸前で止まる。カウンターから身を乗り出すの、反対。人の顔を勝手に覆って、近付いてくる。頬を包んで目を伏せてくるし。あぁ、止めても無理なんだろうなぁ。観念して目を閉じたら、チュッと唇に慣れたのか落ちた。キスだけをして、先輩が離れる。
「別に、そういうの、求めてもなかったんですが」
「いいじゃねぇか。やりたかっただけなんだしよ」
 いや、悪びれなくいわれても。
「っつーわけで。今年の一番乗りは俺だな」
「なにに張り合ってるんですか、もう」
 意味わかんない。そう思いながら、レモンスカッシュを飲み直した。『初恋はレモンの味』ってか。うるさいわ。そんな一人ツッコミをしながら飲んでいると、先輩が出したレモンスカッシュを飲んだ。
「酸っぺっ。レモン入れすぎなんじゃねぇのか?」
「分量通りに入れたはずなんですがね。炭酸水の影響では?」
「んなわけねぇだろ。そうじゃなかったら、はちみつレモン水になっちまうだろ」
「それもそうか」
 そんなことをしながら、はちみつレモンの炭酸水を飲んだ。


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