あやし夜半の星(きながせ)

 夜道を歩く。周囲は真っ暗だ。人気も少ないし、静かな住宅地でもある。だから余計に周囲には気を遣う。
 コツコツと後ろから足音が聞こえる。早く歩けば後ろの足音も早くなる。だからコレはヤバい。きっと不審者かなにかだ!
 そう思ってバッグで応戦したら、なんと黄長瀬さんだった。
「挨拶代わりに殴るとは、とんだ礼儀知らずだな」
「き、黄長瀬さん……」
「アンタの姿が見えたもんだから、注意してやろうと思ったが……。このようだと心配ないようだな」
「あー! 嘘です、嘘です! 本当は一人で帰るのが怖かったんです!! だから一緒についてくれると嬉しいなぁー! 黄長瀬さんの都合がつけば嬉しいなー!!」
 と咄嗟に叫んで彼の腕をグイグイ引く。この、背を向けて去り際の言葉を吐くときが一番怪しい。拗ねた黄長瀬さんを止めると、チラリと肩越しに視線を投げかけてくる。うぅ、怒っている……! ここは、どうにかして機嫌を直さないと……!!
「えぇっと、今日はから揚げを作りたいなぁ、と思っていて……。ほら、大量に作るし、どうせなら一人だと食べきれないし!」
 ジィっと厳しい視線を投げられる。う、うぅ、刺さるような視線が痛い……! 文字通り、痛い!! でもめげずに引き留める。だってまたここで引いたら、すぐ機嫌悪くなるんだもの。
「だから、一緒に食べてくれると嬉しいなぁ、って」
「どうせ、アンタのことだ。よく食うからすぐになくなるだろ」
「はぁ!? 男の人の胃袋と一緒にしないでくれない!? こう見えて、少食なの! あの怨み、まだ忘れてないわよ……!!」
「フン、ようやく化けの皮を剥がしたか。そもそも、あんな量を食うヤツのどこが『少食』なんだ。本当の少食ならば、早食いになど参加しないだろ」
「あのねぇ! あれはあれ! それはそれ!! あのときは、ちょうどお財布に余裕がなかったから……。だ、だからあれは臨時収入!! いーい? 賞金というものは所得税というものがかからないし、上げなくてもいいの。だからセーフ!!」
「性懲りもなく、まぁた分からん美容とかに金を使ってるのか。いい加減、安いのを使ったらどうだ?」
「はー!? なにをいってるんですか!? 女にとって美容は最大の長所なんですよ! 女の子っていうのはいつでも若々しく」
「もうそんな年じゃないだろ」
 蹴る。
「若々しく、いたいものなの!!」
「ってぇ……!! こんな暴力女、いくら顔が良くてもすぐ愛想が尽きるだろ……」
「キーッ! それを直そうと奮闘しているのに!! 貴方ってやつは! 貴方ってやつは!!」
「だからって何故すぐ俺に当たろうとする……。お門違いだ」
「天然!」
 もう一度黄長瀬さんの脛を蹴る。脛は誰だって急所だ。それに怒鳴り散らしたせいで顔に皺が寄りそうで怖い。すぐその場でキュッキュッてマッサージをする。それに黄長瀬さんは「なに変なことをしているんだ?」と返す。大体、ぜんぶ貴方のためにやってることなのに、どうしてすぐ裏目に出るんだろうね! その怒りを込めながら、彼の胸に「馬鹿!」と込めて叩いた。
 黄長瀬さんは眉を顰めるだけだった。
「いてぇ」
「それはどうも!」
「なぜ感謝したんだ?」
「してないわよ!」
 本当、ニブチン!! それとも私のやり方が悪いんだろうか?
 なんだかイライラしてしまいながらも、頭の中では今日の晩御飯の献立を立てる。
 から揚げはやめて、軽いものだけにしておこう。ついでに浸けておいた肉でも出しておこうか。
 そう考えながら、家路についた。


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