げた

 無理をして履いた下駄の、紐が切れた。
「痛い」
「バァカ。無理して履いただからだろーが」
 先輩が背中越しに毒を吐く。無理をして履いた下駄のせいで、足が痛い。紐が切れた指の間も痛いし、捻った足首もジンジンと痛む。
 先輩の肩に顔を埋める。遠くでは花火の打ちあがる音が聞こえた。その一方で、私たちは家路に着く。もちろん、原因は私だ。もう花火どころじゃなくなって、とにかく手当てが大事だの一言で、祭りは打ち上げとなった。
 遠くに行った祭囃子を、振り返って眺める。先輩が私を揺らす。「おい」と、暗に『後ろ髪を引っ張られるな』といっているようにも思えた。それでも、最後までいたかったのは本当だ。手にぶら下げる金魚を眺める。
「せっかく、先輩が取ってくれたのになぁ」
「どうせ来年もあるんだ。今日できなかった分、ちゃんと付き合ってやるさ」
「たこ焼き、食べたかったなぁ」
「いつでも食べれるだろ」
「お祭りの日のは、格別なんですよ」
「まぁ、理由はわからんでもないがなぁ」
 顔を上げた先輩の頭と、ゴツンと当たる。他にも、やりたいことはあった。
「かたぬき、やりたかったなぁ」
「来年もあるだろ」
「あるかなぁ。でも、先輩が圧勝しちゃうかも」
「ハンデをくれてやろうか?」
「どういうハンデなんだろ……」
 そうぼやく。笑う先輩の背中で揺れながら、ドーンドーンと小さくなる花火に耳を傾けた。
 ふと、先輩が止まる。
 登ってる最中でどうしたんだろうと思うと、先輩は海の方を見ていた。私も見る。
 遠くにあったはずの打ち上げ花火が、大きく空に向かって上がっていた。そして海面に大きな花も残して、パラパラと火花を散らした。
「ほら、見れるだろ?」
 そう私を揺らしながら尋ねる先輩の一言に「うん」と答える。一夏で見たいと思った光景を、先輩は叶えてくれたようだった。


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