幹部が幼児化した−そのB

 二人が大人しくしてると思った? そんなわけ、ない。ソファを土嚢代わりにして、手製の拳銃でウェスタンごっこをしていた。
「バキュンバキュン、ずきゅーん!」
「バンバンッ、ばんばんっ!」
 わぁ、戦い方まで個性が出てるなぁ。もうこのまま遊ばせた方がいいかな。疲れて寝てしまうだろうし。ボーッと考えてると、二人がこっちを見た。ジーっと見ている。なにか、反応した方がいいんだろうか?
「なにか食べる? お腹空いてない?」
 多分空いてないだろうけど、空いていたらホットケーキを焼こう。あの万能なパンケーキは、なんにでも合うはず。そう考えたら、二人が頭を横に振った。
「ななし!」
「いらない」
 小さいゲーラ、本当私の名前しかいわないなぁ。「そう」とお昼の断りを受け入れる。とはいえ、このまま放置しておくわけにはいかない。また壁と床の惨状になる。サッと用意したものを渡した。二人の目が、きょとんとなる。
「じゃぁ、競争をしよう? 先にキレイキレイした方が、勝ちね?」
「きょーそ」
「きょうそーか! やる!!」
「じゃぁ、ゲーラは床担当ね。床に描いた模様を綺麗に取った方が勝ち」
「よっしゃ! 一番乗り!!」
「なら、メイスは棚とか家具の模様を拭こうね」
「んっ」
「布に模様を写して、色々な色の混ざったパレットにしようね」
「わかった」
 こういう風にいえば、大丈夫なのらしい。『遊び』と称した掃除に、二人が取りかかる。子どもって、こういう風に伝えればやってくれるのかな。いや、このケースは珍しい方かもしれない。せっせと掃除をし始めたのを見て、私も用意する。雑巾を洗うためのバケツだ。バスルームから新鮮な水を入れて、床に置く。あとは、バケツを倒されないように気を付けないと。もっとひどいことになる。
「ブーンッ!!」
 ゲーラがマイアミよろしく突っ込んできたから、バケツを上に上げた。「バーンッ!」と怪獣みたいに立ち上がろうとするから、さらに高く上げる。チェッとゲーラが唇を尖らせた。
「バケツを倒すと、マイナス五百点」
「げぇ!!」
 新ルールを提示したら、ゲーラが嫌そうな顔をした。逆に、メイスの目がキランと光る。なんか、嫌な予感がした。気付かない振りをして、散らかったものを片付ける。戻す場所を綺麗にしていると、メイスが服を引っ張った。なにかを聞きたがってる。
「なに?」
 背伸びしてなにかを聞きたがっているようだから、身体を屈める。小さいメイスへ耳を寄せると、こそこそと耳打ちをされた。
 ──「他にペナルティがくるルールがあるの?」──その一言で、メイスの印象が変わった。(こ、コイツ!)意外としたたか!! しかも、素で相手を出し抜くことを考えてる。きょとんとするメイスに、そういうこともできないルールだと教える。すると、みるからにメイスのテンションが落ちた。
 小さくなっても、本性ってのは変わらないものなんだなぁ。腹の黒いことを考えたメイスに、早々と掃除に飽きたゲーラ。しかも、ゲーラが止めたのを見て、メイスも止める。こんなところで、二人の息がピッタリな様子を見せないでほしい。そう思いながら、後片付けを進める。(さっきよりマシになったけど)本当、世のお母さんはすごい。三つ子四つ子を同時に育てる人もいるし、これを日がな一日中。(ちょっとキツイ話だ)せめて誰かに手伝ってほしい。二人を放置して、ちょっと自分のことをする。買ったものを、片付けないと。ホットケーキの箱と、ケーキのシロップをキッチンに置く。少し目を離した隙に、二人がプレゼントボックスに近付いていた。
「あっ!!」
「ななし、これ!」
「えっ、ほしいの?」
「おう!」
 えっ、えー。ちょっと待って? 嘘、待って。横からも熱視線を貰う。見ると、メイスだった。メイスもゲーラと同様に、目をキラキラと輝かせて顔を赤らめている。
「ほ、ほしい」
 そう控えめにいわれても。ついさっき、きみの腹の内を見たところなんだけど? 確実に猫を被ってるとしか思えない。「待って」と力なく伝える。えっと、これとこれあったっけ? 注文ができたら、できるとして。できなかったら、諦めてもらうしかない。タブレットのスリープ状態を外して、検索をかける。あっ、まだ在庫ある。残ってた。すかさずクリックして、購入手続きを済ます。これで新品のものが届くはず。既に開封済みをどうにか──ってことは、しなくてよさそうだ。二人に頷く。
「うーん、いいよ。大事に使うなら、ね?」
「おう!」
「わかった」
 元気で素直な良い返事だ。(本当に?)そんな疑問も湧くけど、まぁ、好きにさせておこう。とりあえず、時計の針がここまで進んだ。ご飯を、先に作っておいた方がいいだろう。キッチンに入って、材料を調べる。うん、足りそうだ。食べ盛りとはいえ、いつものように食べないだろうし。精々、多くて三枚程度? レイドルで一掬い、薄く焼いた方でいいだろう。ボウルに必要な材料を全部入れて、泡立て器で混ぜる。ちょっと待って。飽きるの速くない!? 既に新品の玩具に飽きて、別の遊び道具を見つけていた。ゲーラが。メイスはまだ使ってるけど、ちょっと。それ私の。
「ぶーん。ぶん、ぶーんっ!」
「るーるーるー、らー」
 ゲーラが私の集めてたミニカーで遊び始めて、メイスが私の楽譜に音符を書き加える。あー、残り枚数、あとどのくらいになるだろう。行動が子どもみたいなのに、楽譜の書き方は覚えているんだな。
(もしかして、行動様式は前のまま? それとも、以前まで繰り返した習性みたいなのは、残る感じ?)
 これはエリス博士に出す報告書に、書いておいた方がいいかも。ボーナスも出そうだし。カチャカチャと掻き混ぜて、ボウルの中身が滑らかになる。スパチュラも出して、フライパンを温めておこう。焼き始める準備をしたら、足に違和感を感じた。
「ギュルンギュルルルルンッ!」
「こら。ゲーラ、やめて。危ないから」
「なぁ、手伝おうか?」
 あれ、口調が。違和感を感じて振り向くと、まだ小さい。メイスの背がいきなり成長するなんてこと、なかった。
「えーっと」
 どうしよう。今、火を使うし。最悪、バーニッシュの癖を思い出して火傷したら大変だ。フライパンをコンロに置いて、メイスに視線を合わせる。
「今は、大丈夫かな。必要があったら呼ぶから。それまで、リビングで遊んでてくれる?」
「なぁなぁ。ななしー」
 身体を屈めたから、ゲーラが簡単に乗る。パンパンと肩を叩かれた。構ってほしいんだろう。背中を攀じ登ったゲーラの手を、軽く叩いておいた。
「はいはい。ゲーラもね」
「ちぇっ! んだよ」
 こっちも以前の喋り方になっていた。


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