それは多分コンニャク

 猿投山コンニャクの売れ残り問題について解決策を講じた結果、コンニャクを使ったお惣菜を作ることにした。最近、独身生活サラリーマンのお客さんも多いし、主婦の方もお惣菜あった方が夕飯の支度も楽にできていいのではないか──と提案したところ、凄くムッとされた。
「まぁ、それでやりたきゃやればいいけどよ」と許可を貰ったため、こうして厨房に立っているのだけれど。
 書き入れ時は夕飯前。慌ただしく袋田スーパーでタイムセールやらをやってる時だ。あっちもお惣菜を扱ってるが、こちらはコンニャク専門店。コンニャクのみのお惣菜を扱ってるってことで差別化を図りたい。
 賞味期限の近いコンニャクをスプーンで一口大に切る。外でセールストークをしている先輩の声が聞こえる。ウチのコンニャクを褒められて嬉しそうだ。本当、先輩はよくモテる。
「なぁ、千芳。惣菜、いつ出来るんだ?」
「うーん、四時には並ぶかも」
「そっか」
「サンキュー」と裏でいいながら、お客さんのところへ飛んでいく。どうやら往復で買いにきてくれるのらしい。
 メモしたレシピに目を通し、味付けを作る。あとは試験用に買った業務用電子レンジで──使わなかったら自分たちで使おうと話し合った──加熱するだけだ。
切ったコンニャクを厚手の布で包む。
「おい、千芳。休め、交代だ」
「はーい」
 いわれて、エプロンで手を拭って店頭に立つ。といってもこの時間帯はお客さんが少ないため、店番と店の衛生保持に時間を費やすだけだ。その空いた時間で自由に休憩を取る。
 先輩がやった仕事を確認し、その引き継ぎをする。店の前で掃き掃除をしていると、最近顔見知りになった常連の人と会う。「お疲れ様です」「お疲れ様です」「今日も遅くまでやってるつもりですか?」「えぇ、まぁ」「それは良かった。ここの、楽しみにしてたんですよ」とお褒めの言葉を貰うとき、その人が妙に嬉しそうであることに気付く。
 顔を赤く染めている。「えぇ、ありがとうございます」と購入のお礼をいって掃除に戻ったら、視界の端に裸足が見える。
 草履と紺色の作務衣。多分、先輩だ。先輩は着物の裾から生足を出してしまうほど大股で、常連の人に近付いた。
「こいつぁ、ご贔屓にどうも。どうです、職場の手土産にウチのコンニャクでも一ついかがですか?」
「い、いえ。それは結構……」
 妙にドスの効いた先輩の声にビビったのか、常連の人は逃げるように去った。
 先輩を見上げる。腕まくりをしていて、鼻を鳴らしていた。
「売り上げが落ちたら、どうするんですか」
 そう呟くと、ちらっと私を見てからガリガリと頭を掻いた。
「お前なぁ」
 そう呟く小さな声に、どこか呆れが混ざっているような気がした。


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