構ってほしたがりの渦(卒暁後)

 後ろから抱き着いてくる分にはいいけど、ふにふにと口を触られては気が散る。パシッと渦の手を払う。そうしたら、渦が拗ねた。「んだよ」と不貞腐れながら、人の肩で顎をぐりぐりさせる。私の頭に、額をグリグリと擦り付けさせてきた。(マーキングか?)と思いつつ、今年一年の売上記録を眺める。黒字と赤字の関係もトントン、売上が伸びた日時の分析をする。(時間帯は、特に変わらない)ならば、なにかの記念日やイベントと重なったときだろう。新作が出たときとか? もしくは商店街の、いやなかったな。分析を続けていると、ふにふにと頬を揉んできた。
「ちょっと」
 親指と人差し指で甘く抓ろうとする手を、押してみる。渦はピクリと動かない。ますます拗ねるだけだ。
「別にいいじゃねぇか。そんなことは、後に回してよ」
「構ってほしいのはわかったから。ちょっと待ってて」
「それで、一時間も待ちぼうけにさせたじゃねぇか」
「渦が邪魔するからでしょ」
「邪魔してねぇよ」
「じゃぁ、この手はなに?」
「お前にもっと触れてたいからだよ」
 あら、なんて素直。キュッと手の甲を抓る前に、渦がそう出る。渦が話している間にキュッと抓り終えたのに、ビクリともしない。(そう、真っ直ぐな目で見られてもな)正直、セックスとかキスとかそういう気分ではない。(触ってくる分とか、まだいいけど)そう唇を尖らせて頬を触られても、特にどうということはない。いや、気持ちは少し揺れるけど。ジトッと見てたら、渦も見つめ返してくる。(あっ、これだけでいいんだ)プイっと視線を逸らしたら「おい、千芳」と言い返してくる。
「んな、素っ気ない態度はねぇだろ。なぁ、千芳。おい」
「ん、んんー」
「なにニヤついてんだよ。おい」
「ニヤついてないって」
「なら、その口元のニヤケ具合はなんだっていうんだ? え?」
「それはその、いやぁ」
(どうしよう)
 まさか渦が、そこまで子どもみたいに拗ねて構ってほしがるとは。到底思えなくて、でもとても嬉しいというか。渦がツンツンと頬を突いてくる。ちょっとここまで構ってもらいたがりを発動するのも、珍しい。もう少し、これを堪能したい欲はある。
「千芳、なぁ。おい」
「う、うーん」
「おい、なにかいえって。なぁ、千芳。おい」
「んっ、んー」
「なぁ、千芳ってば。おい」
 こうも構えたがりを発動するのは珍しいから、堪能したい。やっぱりこの気持ちしかない。渦がギュッと抱き締めて、ツンツンと頬を突いてくる。拗ねて唇を尖らせて、ジト目に目を伏せての眉を下げる。(本当、ここまで構ってほしがるのは珍しいというか)滅多にないことだから、もう少し堪能したい。無視すると、ギュッと渦が抱き締める力を強めた。
「なぁ、千芳。おいって」
「んっ、んんん」
(どうしよう、かなぁ)
「なぁ、千芳。おい。振り向かねぇと、このまま襲っちまうぞ」
「うーん」
 それはちょっと、困るかもしれない。カプッと耳を噛まれる。(あ、このくらいならいいかも)うずうずと服の中に手を潜り込ませるものだから、パシッと叩く。軽く髪を上げさせて、項にカプッと齧りつく。これくらいなら、まだいいかも。ちょっと許容範囲を探してみる。
 フッ、と渦が耳元に息を吹きかけた。
「なぁ、千芳」
「ちょっと、これは擽ったいかも」
「んなつれねぇことをいうなよ。なぁ」
(といっても)
 そんなモーションをかけられても、渦の渦は柔らかいままだ。絶対、行為の途中で勃つことを期待しているに違いない。けれど私はそういう気分じゃないので、渦の渦は小さいままでいてもらうことにした。
「んー、どうしようかなぁ」
「んな画面じゃなくて、俺を見ろって。なぁ、おい。千芳ってば」
 おい、とまた渦が頬を突いてくる。もう、じゃれ合ってほしいだけでしょ、と思いながら同じことを思う。業務の効率が落ちるけど、精神的な負担が和らぐので、これはこれで有りだと思う。
「なぁ、千芳」
 拗ねて構ってほしさを発揮する渦に、以前見た猫の動画を思い出した。


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