誘惑失敗(卒暁後)

「そういや、なんでそんなところで働いてんだ?」
 皐月様から貰ったのを全部使ったわけじゃねぇだろ? と先輩が聞いてくる。「最近どうよ」の質問に「まぁまぁ」と返して、直近のことを伝える。大学の人からデートに誘われたと返せば「男か?」と聞かれる。性別ならそうだろう。頷けば「断れよ。絶対」と苦い顔をして返された。「穏便に終わらせましたけど」とだけ返して会話を終わらせる。先輩の背中に凭れかかって、肩に頭を預ける。来たというのに、ダラダラと過ごすだけだ。(別に、それでも構わないけど)でも期待という期待はしてしまう。スマホを置いて、背中に指を這わせる。ぐるぐると回した。先輩はスルーする。そんなにスマホが楽しいのか。そう思ってたら、冒頭の質問である。
 先輩の背中から顔を上げた。私へ振り向いている。肩越しに、である。(それは、そうだけど)その半分は大学の学費に費やされた。「まぁ」とだけ頷いて、話を整理する。
「社会勉強になりますからね。実際に入らないと、わからないこともありますし」
「うちもそうだろ」
「猿投山こんにゃく本舗は本舗のやり方があるわけですし。サンプルデータは多い方がいいですよ」
「ふぅん」
 犬牟田さんみたいなことをいいやがって、と愚痴る。そんなこといわれたって。スマホを床に置いて、先輩の上に乗る。背中が広い。お尻も私のより小さくて硬い。キュッと引き締まっている。後ろから手を伸ばして、ギュッと首を抱き締めた。密着すると黙る。顔がちょっと赤くなって、視線を逸らしてきた。なんだ、今さら恥ずかしがって。
「妬いてます?」
「みっ、耳元で喋るな!」
「人には散々してる癖に」
「お前だけに決まってんだろうが!!」
 意外。意外とここで惚気てくるとは。(まぁ、そうなんだけど)といっても、されたことは少ない。「ここから気持ちいいことも、できそうですけど?」と例えを出す。すると先輩の耳がみるみるうちに赤くなって、茹で蛸になった。同時に先輩の瞼も重く落ちて、視界から私を完全に消す。「い、いい」と弱気な否定が聞こえてきた。いらねぇ、ともいってるようである。語尾は完全に弱いけど。ギュッと、さらに胸を背中に押し付けてみる。先輩が肩を竦ませたような気がした。もう少し、押してみる。
「本当に? 結構キツイのでは?」
「犯すぞ」
 ブチギレられた。どうやら逆ギレ一歩手前らしい。顔を真っ赤にして怒る先輩を見ながら思った。


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