見過ごしたひな祭り(卒暁後)

「そういえば、今日ってひな祭りだったらしいな」
 髪を撫でられて、いわれた一言にパチッと目を開ける。忘れてた。ひな祭り対策のも、すっかり忘れてた。自然と気分が落ち込む。
「しまった。どうしよう」
「しょげるなって。まぁ、俺もいわれなきゃ気付かなかったようなもんだし」
 なっ? と同意を求められても。宣伝とか広報とか任される身としては、非常につらい失態だ。先輩の腕が頭の先に当たる。指で髪を梳かされて、頭を撫でられても同じ。「ちゃんと対策をしておくべきだった」と後悔を漏らすと「しゃーねぇだろ」と返ってくる。
「俺だって忘れてたしよ」
「まぁ、こんにゃくでどうひな祭りを、ってのが問題にもなるし」
 当面のところは、それだ。一度季節ものを始めると、それ以降も続ける必要がある。「あー」と先輩が相槌を打ちながら、髪で遊んでくる。先輩の腕にすりすりと額を寄せた。
「なにも思い付かない」
「俺だって思い付かねぇよ。だって、女の行事だろ?」
 いわれてみればそうだけど、それをいったら男の行事もある。確か、兜を飾る日だっけ? こうしてお雛様と兜で分けると、元の行事はなんだったかと忘れる。三月三日は女の子の幸せと健康を願う日で、五月五日は男の子の幸せと健康を願う日。あ、同じか。
「こんにゃく成分を入れたひなあられとか、もしくは丸めた柔らかい団子状にするか」
 うぅ、眠くなってきた。瞼が重い。
「どっちにしろ、手間ぁかかりそうだな。まぁ、来年に考えようとしようぜ。次のひな祭りまで、あと一年もある」
「長い」
「たっぷりと時間もある」
 っつか、と先輩が続ける。
「なんか、いつもと逆じゃね? 立場」
 その疑問に、ムッとちょっとなった。閉じた瞼をどうにか開ける。それでも、眠いものは眠い。
「誰にだって、たまには、ふぁあ。甘えたいときだって、るし」
「へっ、は?」
「だらけたい日だって、あるの」
 とだけ伝えて寝る。なんか先輩の挙動不審になる声が聞こえたけど、無視しておいた。


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