暇を潰す犬牟田と対象になった猿投山(大学在学時)

「そういえば、猿投山。君はいったい、文月のどこを好きになったっていうんだ? まさか、一目惚れだなんて陳腐なことをいうんじゃないだろうね?」
「全部に決まってんだろ」
 さらりと流されて、犬牟田は目を丸くした。まさか、赤面して怒鳴るなどの反応をしないとは。口元を指で隠す。(つまらないな)そう感想を零した。
「ふーん。で、そこから惚気を始めると」
「お望みなら、っていってやりてぇが、なんと千芳から口止めされてるんでな。いいたくてもいえねぇんだよ」
「へー」
 全く興味が湧かない。眼鏡を曇らせた犬牟田の表情は、ハッキリとそう物語っていた。猿投山が顔を歪ませても、微動だにしない。これで話が終わったと思ったのか──これ以上話すと口を滑らせてしまうと思ったからなのか──、猿投山がスマートフォンを取り出す。画面をタップして、操作を始めた。犬牟田も、自前のタブレットを出す。イヤホンを出し、動画を視聴し始めようとした。
「そういえば」
 といって、話を戻す。
「なんか、昔より落ち着いた感じになっていないか?」
「あぁ?」
「猿投山、君のことだよ。故郷を蔑ろにされたり図星を衝かれたときとか、頭に血が昇っていただろう」
 それがない、と犬牟田が自身の頭を指しながらいう。それに心当たりがあるのか、猿投山はムッとした。追及されたくない話題だったのらしい。犬牟田を睨むことを止め、スマートフォンの画面に戻る。
「誰かさんのおかげでな!」
 そう叫んで話を打ち切った。ここで犬牟田は手掛かりを掴む。
(ほほーう。へぇー?)
 最早野次馬根性の興味が湧いてくる。相手が予想通りに動くことは楽しい。犬牟田はもう少し、情報を出した。
「ならさ」
「あん?」
「情報戦略部にいた頃の文月の様子、知りたくないか? といっても、滞在していたときのことだけど」
 さらにいうと、文月は猿投山といるときといないときとでは態度が変わる。あの頃の文月は、猿投山に対して素っ気ない態度ばかりを取っていた。もっというと、自分以外の──蛇崩や蟇郡、犬牟田といるときの方が素直だ。これに興味があるのか、猿投山がゴクリと動く。喉仏が上下に動いた。
(さてさて)
 ここで『興味ある』と動くか『どうだっていい』と興味なさそうに突き放すかは、賭けだ。この辺りは猿投山の成長具合で動く。犬牟田は脳内のバックストレージで、過去のことを思い出す。本能字学園にいた頃、それから卒暁したこと。提示する情報を分別する。使えるものをピックアップして厳選していたら、猿投山が口を開いた。
「あ」と閉じた唇が上下に開く。猿投山が口を開くよりも先に、当の話題の本人が帰ってきた。千芳である。どうやら、猿投山を待たせていたようだ。
「すみません。ちょっと入ってしまって。って、なにしてたんですか」
「いや、別に? とっとと引き取ってくれた方が楽なんだけど?」
「ですね。見てくださって、ありがとうございます」
「おい」
「ほら、行きますよ。ただでさえ部外者なんですから」
「おい、千芳。おい、おいってば」
 ずっと呼びかける猿投山を無視して、千芳は食堂を後にする。(やれやれ)と犬牟田は溜息を吐く。暇潰しにはなったが、ここから移動するのが面倒臭い。残りの講義を調べて、サボるべきかどうかを迷った。


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