髪を吸う(在学中)

 先輩が、ギュッと後ろから抱えてきた。別に、生徒会四天王運動部統括委員長猿投山渦個人の執務室だから、やる分には構わない。けれど、私にも都合というものがある。自分は執務室の椅子に座って、私は先輩の足の上。棘のベルトを緩めて、ちょっと当たらないように配慮してくれているところだけが有難いか。後ろから抱え込み続ける。抱き締める、とはちょっと違う。それよりも腕の力は弱い。グリグリと首に顔を埋めて「はぁ」と重い溜息を吐いた。
「癒されるぜ」
 ご満悦そうに消え入る声に、ムッときてしまった。
「変態」
「はぁ? 人がリラックスしてるってぇときに、水差すんじゃねぇよ。空気読めねぇなぁ」
「どの口がいうか」
「あぁん?」
「いや、良い御趣味をお持ちで」
「だろ?」
 なぜ自慢気にいうんだ。この男は。どさくさに紛れて頭を吸わないでほしい。ちゃんとシャワーを浴びていたからいいものを、お前。先輩の鼻が旋毛の辺りを擦る。スーッと空気が吸われる感触が、頭皮を伝って感じた。(変態)その一言しか出ない。
「他人の体臭を、嗅ぐ御趣味のようで」
「別に」
 スッと先輩の頭が下がる。頭から肩へ、移ったようだ。でも吐息が首筋にかかる。
「誰でもってわけじゃねぇよ」
「じゃ、他にも候補がお有りで?」
「ねぇなぁ」
 なんだそれ。つい口に出しそうになった。気だるげな声で否定して、他人の首筋に鼻をくっ付けて息を吸う。ついでに軽く噛んできた。
(じゃぁ)
 ニチャ、と粘着質な音が聞こえる。噛み付かれたところが、ヒヤッとした。
(今してるこれは、いったい、なんだろう)
 機を狙って、また噛んでくる。甘噛みの練習か。まぁ、体裁の良い練習相手ってことだろう。別に、嗜虐性や敵意や害意がないから、好きにさせているわけで。もしそうであったら、最初からお断りしている。
 先輩の口が、首をまた噛む。多分、うっすらと軽く歯型の痕は残っているだろうな。首を噛むのをやめて、また髪に鼻を埋めてくる。なにをしたいのかがわからない。暫く先輩の相手に付き合った。


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